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まずは落ち着いて話を聞いてみよう
しおりを挟むずっと女子寮の前で話を続けるのも奇妙だったので、私はクロヴィス様を連れて部屋に入ることにした。
男女が同じ部屋で二人きりになるというのは褒められたことではないけれど、婚約者だし、そもそも親戚なので、二人きりで話すと言うのはそう珍しくはない。
幼い頃はよく、暇を持て余しては城に遊びに行って、おままごとなどをして遊んだものである。
ちなみに私はお姫様役で、クロヴィス様はペットの犬役だった。
「ロヴィ、お手」などと言って、芸を仕込もうとする私に、クロヴィス様はよく付き合ってくれたものである。
今考えると、物凄く不敬だ。まぁ、クロヴィス様なので別にいいか。
「荷物も置きたいですし、長旅で疲れたので、寮の部屋で話しましょう」
「……ネメシア公爵家から、学園までは歩いて移動できる距離だと思うが」
「クロヴィス様、馬車での移動というのは、それだけで疲れるものなのですよ。ずっと荷物を持って立ち話に付き合っているルシアナが可哀想だと思わないのですか?」
「しかし、リラを学園に受け入れる訳にはいかないんだ」
「しつこい」
私はルシアナに目配せすると、クロヴィス様の横を通り過ぎて学園寮の中へと足を踏み入れる。
ルシアナは「失礼いたします」と言いながら、私に従った。
クロヴィス様が慌てたように後ろをついてくる。結局ついてくるのなら、最初から抵抗しなければ良いのに。
「お嬢様のお部屋は、二階の端ですよ。各階に、十二部屋。四階建てです。一番上の階が良いかなとも思ったんですけど、毎日階段を上がり下がりするのが大変なので、二階にしました」
「ルシアナが楽ならそれで良いわ。特にこだわりはないもの」
「さすがは私のお嬢様、可愛い上に慈悲深い。このルシアナ、地の果てまでもついていきます」
「地の果てまでついてこなくて良いわ。伯爵家に帰って早く結婚しなさいよ」
「今のはとっても、良いツンデレです、お嬢様! ルシアナがいなくなったら寂しい癖に、それを隠して、私の幸せを願ってくれるいじらしさ。殿下、聞きました? うちのお嬢様の健気たるや、殿下の妄想の番など、足元にも及ばないぐらい愛らしいとは思いませんか」
ルシアナは態度は軽々しいけれどよくできたメイドなので、一目があるときにはクロヴィス様に話しかけたりしない。
従者が王太子殿下に声をかけるなど、不敬も良いところだからだ。
けれど、私が十歳、クロヴィス様が十一歳の時から我が家で私に仕えてくれていたルシアナは、私達にとっては近所のお姉さん、みたいなものである。
なので、話しかけられてもクロヴィス様は怒ったりしない。
最近ではお互いに思春期甚だしかったせいで疎遠になりつつあったけれど、幼い頃の思い出というのは心の底に残っている者だ。
こうして三人でいると懐かしい。十歳のころはまだクロヴィス様は公爵家に遊びに来ていたので、三人で公爵家の敷地内を散策などして遊んだものである。
このころは私も流石に、クロヴィス様をイヌ科の何かのような扱いはしていなかった。
ロヴィと呼びながら、「お手!」などと言っていたのは、五歳頃までの話だ。
そのことについてクロヴィス様と話したことはないけれど、覚えているのだろうか。
覚えていたらちょっと嫌だ。
「俺の運命の女がどんな姿かたちをしているのかは分からないが、番なのだから、きっと魅力的に見えてしまうのだろう。これは、半獣族の本能のようなものだ」
「クロヴィス様、誰かに聞かれたら不味いですよ。仮にも、この国の王になる予定の王太子殿下なのですから、そのような妄言を大声で吹聴するなどと、正気を疑われてしまいます」
私は妄想の番の存在について話すクロヴィス様を注意した。
玄関から入り、大きなホールの正面階段を二階へと上がる。歌い踊りながら降りていきたくなるほどの、大階段だった。そのうち誰もいないときにやってみよう。
「今のは、私は殿下を捨てたりしないのだから無駄な心配はしないで♡ という意味です」
「リラ、愛らしいな……、俺は、どうしてこんなに可愛らしいリラから、心変わりをしてしまうんだ……」
「ルシアナ、階段から突き落とすわよ。クロヴィス様、次に可愛いと言ったら、尻尾の毛を毟りますよ」
私は苛々した。
私が何を言おうが、公爵家の人々が好意的に捉えてくるのにはもう慣れていたけれど、それをいちいちクロヴィス様に通訳しなくて良い。
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