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クロヴィス様のお出迎え
しおりを挟む門をくぐって、桜並木の並ぶ道をしばらく歩くと、目の前に王立魔道学園が見えてきた。
三階建ての煉瓦造りの古めかしい建物である。まさに伝統と格式を重んじる王立魔道学園といった様相だ。
私は古い物が割と好きなので、学園の厳かな佇まいは悪くないように思う。
遠い昔に通っていたことのあるお父様とお母様は「古い」「黴臭い」などと言っていたけれど、茶色い煉瓦と深緑色の屋根、外壁に絡みつく蔦の様子が素晴らしい。派手さがなく落ち着いた雰囲気で、好みど真ん中である。
「あれが学園ですか、古臭いですね」
「……ルシアナ、魔道学園は三百年以上前から王国に存在するのよ? それこそ、人獣戦争の時からあったそうよ」
「黴臭い歴史の話ですね、リラ様。まったくリラ様ったら、賢いんだから! ルシアナは鼻が高いです」
「ちゃんと話を聞きなさい。人獣戦争を経て、王国は半獣族と人族の共存する平和な国になったのだから」
「もう血が混じりまくっちゃって、どっちがどっちか分かりませんけどね」
「まぁ、そうよね。でも多少の違い話あるわよ。私のお父様とお母様は、人間だし、クロヴィス様は半獣だわ。耳と尻尾があるのが半獣」
「お嬢様とクロヴィス殿下に子供が出来るとしますよね、そうしたら、どうなります?」
「下世話ね、ルシアナ。半分半分になるから、どちらの特性が強く出るのか分からないわ。耳と尻尾があればそれは半獣族という事になるし、私に似たら、人族ね。最近はあまり種族についての違いを気にするひとはいないけど」
ルシアナには耳も尻尾もない。
元々エーギル伯爵家の三女だったルシアナは、私が十歳の時に行儀見習いとしてネメシア公爵家へとやってきた。
年頃になれば伯爵家へと戻り結婚をする予定だったのが、そのまま我が家に居ついてしまったという状態である。
ルシアナが言うには「お嬢様が可愛すぎて離れられない」らしい。私としては別に帰って貰って構わないのだけれど、そういう事を言うと我が家の者たちは私に甘いので「今日もリラ様のツンデレが素晴らしい」とか言われてしまうのだ。
だからあまり言わないようにしている。私はツンデレとかじゃない。
「魔力があるのって、基本的には貴族だけですよね、お嬢様」
「そうね、そう言われているわ。魔力の発現は、貴族に限られるとはいうけれど、一応庶民の方々にも、魔力持ちはいたりするのよ。強い魔力がある子供は、国が保護するから、扱いは貴族に近しくなるわね。貴族同士で結婚したり、強い魔力持ちの子供を養子にむかえることも多いから、必然的に貴族にばかり、魔力持ちが現れることになったのよ」
「お嬢様、天才ですね。国の歴史に対する理解の深さ、もう生徒じゃなくて、教師になれるのでは?」
「……あのねぇ、ルシアナ。こんなことは、誰でも知ってるわよ」
「私は知りませんでしたよ? 興味ないですし」
「じゃあ聞かないでよ」
「お嬢様の声を聞くのが好きなんです。愛らしい天使の声です。永久保存して、常に聞いていたい」
「ルシアナ、うるさい」
うっとりと言うルシアナを私は睨んだ。
どれ程私が怒ってもめげないので怒るだけ無駄だということは分かっているのだけれど、私の魔力に対する講釈が無駄な時間過ぎるので返して欲しい。どうせ内容は聞いていなに違いない。
「私も貴族の端くれなんですけど、魔力、ないんですよね。魔力があったら、お嬢様をどんな悪者からも守れる最強のルシアナになれたのに」
「王国は平和だから大丈夫よ。ルシアナよりも私の方が強いし」
「お嬢様の魔法は最強ですからね! 魔道学園で更に磨かれることを楽しみにしています」
「最強、でもないけど……」
正面にそびえる学園の前で、道が二つに分かれている。
右に進むと学園寮がある。学園寮は、学園よりは新しい建物だった。公爵家よりも一回りぐらい大きい。
男子寮と女子寮に分かれていて、私は当然女子寮で生活することになっている。
隣通しで二棟立っている建物のうち、青い屋根が男子寮、赤い屋根が女子寮だと事前に説明を受けていた。
入学式は明日からだし、上級生も明日まではお休みなので、ひとけが少ない。
誰もいないと思っていたのだけれど、女子寮の前に長身の男性が待ち構えるようにして立っていた。
「リラ!」
大きな声で名前を呼ばれて、私は眉根を寄せる。
誰かと思ったら、クロヴィス様だった。名前を呼ばれたせいで一瞬睨んでしまった。公爵家で構い倒されることに辟易している私の、いつもの癖である。
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