虐げられた公爵令嬢は、隣国の白蛇王に溺愛される

束原ミヤコ

文字の大きさ
上 下
7 / 10

冤罪

しおりを挟む

 冬が過ぎ、春になった。
 オスウィンとフェリシアの結婚式の日取りが近づいている。
 けれどオスウィンはフローラとばかり、時間を過ごしていた。
 マデリンも、まるでオスウィンをフローラの夫のように扱っており、フェリシアのハインツィア家での居場所は相変わらずどこにもないままだった。

 婚約を、反故にしてもらおう。
 でも、そんなことができるのか。

 ここから、逃げて砂漠の国に行こう。
 ──砂漠というのは、どこまでも果てしなく広がる砂地なのだという。
 白く美しい砂が、どこまでもどこまでも続いていて、それはまるで砂の海のようだという。

 ここで死ぬより、その美しい砂の上で死にたい。
 きっと砂が、何もかもを隠してしまうだろう。フェリシアの生きた証でさえ。

 サリハに行こう。そう決意した矢先のことだった。
 それは、オスウィンの卒業式典。王立学園には多くの貴族が集まり、王太子殿下の卒業を祝っていた。

 フェリシアもドレスを着て、参列していた。
 式典が終わったら、オスウィンに別れを告げよう。
 どうかフローラと幸せになって欲しい。もう、貴族として暮らしたくない。
 ──どこか遠くに、あなたたちの邪魔にならない場所に消えるから。

 何も告げずに逃げるべきかと悩んだが、伝えるべきだと判断をした。
 そうすればオスウィンは何の気兼ねもなくフローラと結婚ができる。

 フェリシアのことは、『好きな男と逃げた恥知らずの女』とでも言っておけば、皆が納得するはずだ。
 何があったのか、どこに行ったのかさえわからないのでは、かえって彼らに迷惑がかかるだろうと考えた。

 静かに式典の終わりを待っていたフェリシアは──けれど、兵士たちに突然拘束をされた。
 そして、オスウィンの大きな声が式典会場に響き渡った。

「皆、聞け! そこにいるフェリシアは、醜悪なことに蛇を飼っていたのだという! その蛇は、フェリシアに命じられてハインツィア家の使用人たちに危害を加えたそうだ!」

 会場が、ざわめく。
 どうして今になってイグニスのことを、と、フェリシアは目を見開いた。
 オスウィンの横で、フローラがにやにやと笑みを浮かべている。

「ハインツィア公爵家は、フェリシアを不憫に思いそれを隠していたようだが、私の身を案じたフローラが私に教えてくれた。フェリシアはサリハに通じている、裏切り者の売国奴だとな!」
「……っ、違います、私はサリハに通じてなどおりません!」

 イグニスは、言葉を話すこともできない。人の姿に戻ることもない。
 ただの、蛇だった。

 蛇を飼うことは罪だ。だが、内通者などではない。
 フェリシアの反論は黙殺された。オスウィンの「黙らせろ」の一言で、兵士たちに口の中に布を詰め込まれる。

「内通者は死罪だ。父からもすでに了承を得ている。父は、オリヴィア殿が自分を恨み、フェリシアにサリハと内通をさせたのだろう。復讐をするだめだと言った。フローラのおかげで、内通者に気づくことができた。フェリシアは、処刑とする」

 ──そして私は、フローラと婚約をする!
 高らかなオスウィンの声を、フェリシアはどこか遠くの世界の出来事のように聞いていた。

 どうせ死ぬのなら、美しい砂漠を見て死にたかった。
 投獄され、処刑台にのぼらされたフェリシアは、ただそれだけを考えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

やめてください、お姉様

桜井正宗
恋愛
 伯爵令嬢アリサ・ヴァン・エルフリートは不幸に見舞われていた。  何度お付き合いをしても婚約破棄されてしまう。  何度も何度も捨てられ、離れていく。  ふとアリサは自分の不幸な運命に疑問を抱く。  なぜ自分はこんなにも相手にされないのだろう、と。  メイドの協力を得て調査をはじめる。  すると、姉のミーシュの酷い嫌がらせが判明した。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

【完結】婚約破棄されたら、呪いが解けました

あきゅう
恋愛
人質として他国へ送られた王女ルルベルは、その国の人たちに虐げられ、婚約者の王子からも酷い扱いを受けていた。 この物語は、そんな王女が幸せを掴むまでのお話。

【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……

しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」 そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。 魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。 「アリス様、冗談は止してください」 震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。 「冗談ではありません、エリック様ぁ」 甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。 彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。 「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」 この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。 聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。 魔法を使えないレナンとは大違いだ。 それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが…… 「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」 そう言うレナンの顔色はかなり悪い。 この状況をまともに受け止めたくないようだ。 そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。 彼女の気持ちまでも守るかのように。 ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。 同名キャラで様々な話を書いています。 話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。 お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。 中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^) カクヨムさんでも掲載中。

処理中です...