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婚礼とお祭り 2
しおりを挟むダンテ様は国王陛下のご友人なのに、その態度は冷たい。
私には可愛い方なのに、不思議だ。
「あ、あの、私がお願いしたのです。陛下がいらっしゃると聞いて、私の家族はきっと緊張のあまり川渡りガザミのように泡をふいて倒れてしまう……と思いまして。それなら、もてなす側に回って貰おうと思って。これは、エステランドのお祝いの形なのです」
小さな街だから、結婚式などがあると街ぐるみでお祭りになるのだ。
これは娯楽がなく、結婚式も一年に一度あるかないかなので、それを口実にお祭りがしたいだけなのだと私は思っているけれど。
お父様もお兄様もお祭りが好きだ。お母様は料理が好きで、食べて貰うのはもっと好き。
街の人々は元々、私とダンテ様のお祝いでお祭りを行うと聞いていた。
そこにお父様たちが参加した形となった。
そして、それならば一緒にお祝いをするべきだろうと、挙式も街の広場であげることにしたのである。
ミランティス家でそれは前例のないことだった。
けれど、ダンテ様は「かまわない」とすぐに頷いてくれたし、ディーンさんもサフォンさんも「でしたらすぐに手配します」と動いてくれた。
「ダンテ君! 見てくれ、この立派な川渡りガザミを! ダンテ君は体が大きいから、川渡りガザミよりも子豚の丸焼きのほうがいいかな」
「ダンテ君、ラムチョップもあるぞ。いい筋肉には、良質なタンパク質が必要だ。タンパク質とは、肉や魚に含まれている成分のことで、あっ、知っているか」
お父様とお兄様が、もうすっかり家族になっているダンテ様に嬉しそうに話しかける。
それから、ジェイド様とエリーゼ様に気づいて、お母様とレオと同じ反応をした。
私はもう一度、お父様たちをジェイド様に紹介した。
ジェイド様は面食らっていたけれど、すぐにお腹をかかえて笑いはじめた。
「あはは……最高だなぁ! 氷の軍神、笑わない冷血公爵と名高いダンテの結婚式が、こんなに明るいものになるなんて。これは全て、ディジー嬢のおかげだね。とてもいい。私はすごく、楽しいよ」
「ええ! 私もまるで、辺境に帰ったようで嬉しいわ、ディジーさん。それに、ジェイド様がこんなに笑っているのは久々に見るわ。ありがとう」
ジェイド様もエリーゼ様も、とても喜んでくれている。
私は嬉しくなりながら、ドレスの下のお腹が鳴らないかひやひやしていた。
だってすごく、いい香りがするのだもの。
お父様と一緒に、カールさんがクラムチャウダーをつくってくれている。
私たちの姿に気づくと、「川渡りガザミのクラムチャウダーですよ。ミランティス領で採れる貝やエビもふんだんに入っています。最高に美味いですよ」と、鍋の蓋を開けて見せてくれた。
「……美味しそうです。ダンテ様、どうしましょう。私、とても、堪えられないかもしれません……」
私はダンテ様の腕をきゅっと掴むと、潤んだ瞳でダンテ様を見つめる。
頬が紅潮しているのが分かる。切なげに眉が寄った。
「ディジー……」
「はやく、挙式をすませましょう? 食べたいものがたくさんあります。演奏も、聞きたいですし、歌も聴きたいですし。お祭り、そわそわしてしまって……」
「わ、わかった。早々に、挙式を行おう」
狼狽したように、ダンテ様が言った。
ジェイド様が腕を組みながら「なるほど、これが猛獣使いの力か……」と、小さな声で呟いた。
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