君を愛さない……こともないような、そうでもないようなって、どっちなんですか旦那様!?~氷の軍神は羊飼い令嬢を溺愛する~

束原ミヤコ

文字の大きさ
上 下
80 / 84

婚礼とお祭り 1

しおりを挟む



 馬車がとまったのは、街の中心地。中央広場だった。
 たくさんの花々で飾られて、色とりどりの布が家から家に伝う紐に旗のように飾られはためいている。

 広場を囲うようにして様々な露店が並び、その光景はさながらエステランドの収穫祭だった。
 街の人々がそれぞれ着飾り集まっている。

 神官の皆さんも、聖歌隊の皆さんの姿もあるし、花で飾られてのんびりとした優しい瞳で子供たちに囲まれているオルデイル牛もいる。

 ダンテ様に手を引かれて馬車から降りると、すぐに見慣れた子羊と犬が私の元へと駆け寄ってきた。

「エメルダちゃん、アニマ!」

 私はしゃがむと、二頭を抱きしめた。
 ふわふわの感触が懐かしい。すりすりと体をすり寄せてくれるエメルダちゃんとアニマをよしよしして、私の隣で驚いているダンテ様を見上げた。

「ダンテ様、子羊のエメルダちゃんと、牧羊犬のアニマです。エステランドにいたときは、ずっと仲良しで」

「羊と、犬」

「はい、エメルダちゃんとアニマです」

「まぁ、可愛い!」

 ジェイド様と共に馬車からおりてきたエリーゼ様が、嬉しそうに近づいてくる。
 怖がらずにエメルダちゃんとアニマを撫でて、にこにこと微笑んだ。

「ディジー、なんて綺麗なのかしら」
「姉上、なんだかお久しぶりです。お元気そうでよかったです。エメルダ、アニマ。姉上のドレスが汚れてしまうから、こっちにおいで」

 人混みの中からお母様とレオが現れる。
 婚礼の正装――ではなくて、お祭りの正装をしている。
 エステランドのお祭りでは、ドレスなどは着ない。

 着るのは三角巾とエプロンと、花の刺繍のされている黒いスカートである。
 歌ったり踊ったり、料理をしたり食べたりと忙しいので、女性たちは動きやすい服装を、男性たちも同じく。

 それでも特別な衣装なので、普段着よりは華やかだ。
 
「レオ、お母様!」
「……エステランドの奥方と、弟君ですね」

「まぁ、ダンテ君。母上と呼んで」
「レオでいいですよ、兄上」

「……っ、感謝します。では、母上、レオ。ご挨拶が遅れまして」

「そういうかたくるしい挨拶は苦手なの。ダンテ君はディジーの夫なのだから、私の息子よ。三人目の息子だわ」
「兄上が二人もできて、僕も嬉しい……って、母上! 国王陛下がいらっしゃいますよ、母上」
「あぁああどうしようかしら……! オルター、国王陛下よ、オルター……!」

 ダンテ様とご挨拶をしていたときは、いつもどおりのお母様とレオだったのだけれど、私たちの後ろからジェイド様が姿を見せると、動揺しはじめる。

「私の姿を見てここまで動揺してくれるというのも、中々新鮮なものだな」
「ジェイド様は、お城では妙なことばかりをはじめる道楽者の国王陛下ですからね」

「空見台も天文台も無駄だと言われる。しかしディジー嬢のおかげで無駄ではないと判明したのだ。これで、うるさい貴族どもを黙らせることができる」
「ええ、本当に」

 にこやかになんだか少し怖いことを話し合っているジェイド様とエリーゼ様に、私は母とレオを紹介した。
 恐縮していた二人だけれど、そこはそれ、私と似た性格をしている二人だ。
 ジェイド様やエリーゼ様が気安く話しかけてくれると、すぐに慣れたようだった。

 私もそうだけれど、物事を深く考えたり悩んだりしないのが、私の家族のいいところだと思う。

「ディジー、ダンテ君。オルターたちが、川渡りガザミのパエリアを作っているわ。今日のメイン料理よ」
「こんなこともあろうかと、川渡りガザミをたくさん持ってきてよかったですね、母上」
「ええ。ダンテ君へのお土産にと思っていたけれど、持ってきてよかったわね」

 お母様が視線を向けた先に、お父様とお兄様の姿がある。
 二人はどこから持ってきたのだろうかというぐらいに巨大なパエリア鍋で、川渡りガザミパエリアを仕込んでいる。

 お兄様はそうしながら、焚き火でラムチョップを焼いていた。
 パン釜で焼かれているのは、お母様の得意なシナモンロール。懐かしい香りが、鼻腔ををくすぐる。

「――今日は、ダンテの挙式だと聞いてきたのだが、これは一体」

「ご不満ですか、陛下」

 ダンテ様が不機嫌そうな顔で辛辣なことを言うので(これは本当に不機嫌に辛辣なことを言っている)私はあわてて間に割って入った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...