君を愛さない……こともないような、そうでもないようなって、どっちなんですか旦那様!?~氷の軍神は羊飼い令嬢を溺愛する~

束原ミヤコ

文字の大きさ
上 下
77 / 84

国王夫妻の来訪

しおりを挟む

 本来は、私とダンテ様の結婚式とは大聖堂にてミランティス家の者たちと私の家族、神官様たちに見守られながらひっそりと行うものであったらしい。
 参列できるのはごく限られた者だけで、その後馬車にて屋敷に帰り食事会となる。

 それから、貴族の婚礼において一番大切な初夜を迎えるわけである。
 ダンテ様の義務の一つが血を繋ぐこと。後継者がいなくては、ミランティス家も領地の者たちも困ってしまう。

 もちろん、子供が産まれずに親戚筋から養子をもらう方もいるし、そうでなければ優秀な孤児をもらう場合もある。
 家督を継ぐときは国王陛下承認が必要で、継がせる者がいない場合は領地を国王陛下にお返しすることになる。

 貴族の妻とは、世継ぎを産ませるために娶るものである。
 その重要性ぐらいは私にも理解できる。
 それだけ、ダンテ様の亡きお母様はどれほど肩身の狭い思いをしたのか。
 そして、お父様がどれほど深く奥様を愛し、守っていたのかということが偲ばれる。

 ともかく、初夜とは大切なものなのだ。失敗をしないように気をつけたい。
 ダンテ様はどちらかといえば遠慮がちで、どちらかといえば照れ屋さんである。

 なんせ、君を愛しているという代わりに、愛さないと口走り、そのうえ慌ててそれを否定するために、そうでもないような、と付け加えたような方なのだ。
 ここはひとつ、私が頑張らなくてはいけない。

 という決意を胸に、身支度を整えた私は馬車に乗るために、お屋敷の入り口で待っているダンテ様の元へと向かった。

 婚礼着というのはとても歩きにくい。普段着ているそれはそれは豪華なドレスよりもスカートの裾が長いからだ。
 両肩も剥き出しになっていて、気を抜くとドレスがストンと落ちてしまいそうである。
 落ちないように背中の紐をきつく締めてくれているので、大丈夫なのだけれど、心もとないのは確かだ。

 スカートの裾は転ばないように、ロゼッタさんたちが持ってくれている。
 時折、髪に飾られた花を直したり、宝石を直したりもしてくれる。
 そのためにお屋敷の玄関にたどり着くのにかなり時間がかかってしまった。

 そして、私がお屋敷の入り口に辿り着くと、そこにはすでに見慣れないそれはそれは美しい方がいらっしゃった。
 金の髪に、透き通る湖のような碧眼に白い肌。
 黄金と宝石で作られたような、優しげでたおやかな男性である。
 
 その隣には、そんな眩い男性が霞んでしまうほどに雄々しく姿のよいダンテ様。
 白い婚礼着が目に眩しい。いつもの軍服も素敵だけれど、白に繊細な金糸の刺繍の入った婚礼着も素敵だ。
 足が長く、胸板があつく上背があると、こうも礼装が似合ってしまうものなのかと感心してしまう。

 黄金の男性には申し訳ないけれど、私がより男性的な魅力を感じるのはダンテ様だ。
 抗いきれないフェロモンに、私はもうすっかり春先の雌羊である。

「ディジー……」

「ディジー嬢だな。エステランドの秘された妖精と名高いのも頷ける。とても可憐な姿だ。本当に、美しいな」

 何か言おうとしているダンテ様の言葉を遮り、男性が私を褒めてくれる。
 ダンテ様、すごく怒った顔で男性を睨みつけている。
 ダンテ様はいつも怒っている顔をしていると皆さんいうけれど、いつもは怒っていない。
 でも、今は怒っている。不機嫌そう。ダンテ様の本気の不機嫌を初めて見た気がする。

「……陛下。余計なことを言わないとの約束です」

「そう怒るな、ダンテ。女性を褒めるのは、男としての義務だと心得ている。そういった教育を受けているのでな」

「陛下。ディジーに下心を抱くのならば、場合によっては俺は、離反も厭いません」

「ダンテ。そのぐらいの饒舌さで、ディジー嬢のことを褒めればいいと私は思うが」

「それができないのがダンテ様のいいところではありませんか」

 男性の後ろから、小柄な女性が顔を出した。
 小柄だけれど、優雅で凛とした声音の愛らしくも美しい女性である。

 真っ直ぐな黒髪に、青い瞳の精巧な人形のような顔立ちの女性だ。
 赤い唇を三日月型にして笑顔を浮かべると、どこか人好きのする愛嬌が生まれる。

「はじめまして、ディジーさん。ジェイド様の妻の、エリーゼと申します。そしてこちらが夫のジェイド──」

「ジェイド・ヴァルディアだ。ディジー嬢、会うことができて、光栄に思う」

 薄々会話から理解していたけれど、美しい男性は国王陛下で、その隣にいる可憐な女性は王妃様だ。
 私は恐れ多すぎてどうしようかと混乱して、平伏しそうになってダンテ様に止められた。
 膝をつこうとしたのを、抱き止められた形になる。

「は、はじめまして! 私はディジー・エステランド……本日、正式にディジー・ミランティスになる、ダンテ様の妻です……!」

「俺の妻です」

 私の言葉をついで、ダンテ様が言う。
 今度は不機嫌そうではなく、どこか誇らしげで、自慢気だった。

「君が、吹雪の予言をしてくれたのだな。おかげで、王都の被害も最小限に済んだとは、手紙に書いたが。改めて礼を言わせてほしい。ありがとう」

「ディジーさん、私からもお礼を。吹雪を知らずに過ごしていたら、怪我人も出ていたでしょうし、事故も起きていたでしょう。帰路につけずに立ち往生して凍える人も出たでしょうし、薪の備蓄がなく凍死する人も多くいたかもしれません。吹雪がわかっていればこそ、対応することができたのです」

「い、いえ、とんでもないです。皆さんがご無事で何よりでした」

 ここにきて、何度も褒められてお礼を言われた。
 国王陛下夫妻にまでお礼を言われてしまい、私は恐縮のしきりで、ダンテ様の腕をぎゅっと握り締めた。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢ですが、その運命変えさせて頂きます!

Rohdea
恋愛
──“私”がいなくなれば、あなたには幸せが待っている……でも、このまま大人しく殺されるのはごめんです!! 男爵令嬢のソフィアは、ある日、この世界がかつての自分が愛読していた小説の世界である事を思い出した。 そんな今の自分はなんと物語の序盤で殺されてしまう脇役令嬢! そして、そんな自分の“死”が物語の主人公であるヒーローとヒロインを結び付けるきっかけとなるらしい。 どうして私が見ず知らずのヒーローとヒロインの為に殺されなくてはならないの? ヒーローとヒロインには悪いけど……この運命、変えさせて頂きます! しかし、物語通りに話が進もうとしていて困ったソフィアは、 物語のヒーローにあるお願いをする為に会いにいく事にしたけれど…… 2022.4.7 予定より長くなったので短編から長編に変更しました!(スミマセン) 《追記》たくさんの感想コメントありがとうございます! とても嬉しくて、全部楽しく笑いながら読んでいます。 ですが、実は今週は仕事がとても忙しくて(休みが……)その為、現在全く返信が出来ず……本当にすみません。 よければ、もう少しこのフニフニ話にお付き合い下さい。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...