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秘伝のレシピ 2
しおりを挟む「す、すみません、ディジー様。笑ってしまって……そんなことをする伯爵様など聞いたことも見たこともないものですから」
「ふふ、いいのですよ。因みにお兄様は筋肉が自慢なので、冬でもタンクトップ一枚です」
「えっ」
「エステランドは寒いのに!?」
「筋肉は全てに打ち勝つことができるそうです。お兄様に負けず劣らず、ダンテ様もとても素敵な筋肉をしていらっしゃると思います」
「ダンテ様が冬でもタンクトップ一枚……」
「見たいような、怖いような……!」
タンクトップ一枚で過ごすダンテ様を想像して、私は顔を赤らめた。
きっとすごくお似合いだけれど、想像するだけで胸がどきどきする。
これが、魅力的な雄の力。私は今、魅力的な雄羊を取り囲む雌羊の気持ちを味わっている。
「ごめんなさい、余談でした。家族の話をできるのが嬉しくて。チーズフォンデュのつくりかたですよね?」
「はい、よろしくお願いします、ディジー様。少しでもエステランドの味を再現したく思いまして。エステランドのチーズフォンデュが有名ということもありますが、ディジー様が故郷を思い出せるように、と」
「カールさん、ありがとうございます……!」
「うぐ、眩しい……! ダンテ様が挙動不審になる気持ちが分かる……!」
「男って馬鹿」
「男って馬鹿ですね」
「ディジー様が可憐だというのは激しく同意しますが」
カールさんが両手で顔を押さえて小さくなるのを、ロゼッタさんと侍女の皆さんが半眼で見下ろしている。
もしかしてロゼッタさんはカールさんのことが好きなのかしら。
カールさんは私に気をつかって愉快な態度をとってくれているだけだと思うけれど。
それでもやきもちを焼いてしまうのが女心だと、私は知っている。
エステランドで友人たちの恋愛の話をよく聞いていたからだ。
娯楽が少ない場所なので、話すことといえば今日の天気とか恋愛のことばかりだった。
私は聞いていただけで友人たちからは「ディジーちゃんは恋をしないの?」「ディジーちゃんは男より馬や牛や羊のほうが好きなのよ」と言われていた。
その通りだった。
カールさんから基本の作り方を聞いた。
ミランティス家では何種類かの高級チーズを混ぜて作るらしい。
「すごく美味しそうです。作り方は同じですが、エステランドでは、基本的にはエステランドチーズと白葡萄酒しかいれません。白葡萄酒をこれでもかというぐらい多めにいれるのです。分量に決まりはなくて、好きなだけいれます。多分、白葡萄酒が有り余っているので消費したいからそうなったのだと思います」
「それだけでサフォンさんが大絶賛するほどの美味しいチーズフォンデュが……! やはり、素材がいいからか……分かりました。試してみます」
「はい! とっても楽しみにしていますね!」
どうやら今夜はチーズフォンデュが食べられるらしい。
カールさんは「ディジー様の口に入るものを料理できる幸せ……」と言いながら、胸を押さえた。
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