上 下
33 / 84

屋台のご飯です、旦那様 1

しおりを挟む


 ダンテ様に促されたので、私は支配人さんの用意してくれたフルーツティーを一口飲んだ。

 甘酸っぱさと紅茶の爽やかさが口に広がり、喉が潤う。
 それから、はっとしてダンテ様を見上げた。

「大変です、ダンテ様!」

「……どうした」

「乾杯するのを忘れていました。お酒の席では乾杯、しませんか? 嬉しいことがあった日には、乾杯を……」

「しないわけではないが」

「では、乾杯をしましょう、ダンテ様」

 私はダンテ様の持っている琥珀色の樽酒の入ったグラスと、フルーツティーのグラスを軽くぶつけるふりをした。
 実際にぶつけたりはしない。グラスが割れると困るからだ。

「今日はデートをしてくださってありがとうございます。お仕事中でしたのに私を優先してくださって、私はとても素敵な旦那様の元に嫁ぐことができて、とても嬉しいです」

 乾杯をして、感謝の言葉を伝えると、ダンテ様は何故かグラスを落とした。
 グラスが落ちる直前で、パシっと手にする。さすがは氷の軍神様、素晴らしい反射神経をお持ちになっている。
 奇跡的に中の樽酒も無事だった。

 琥珀色の液体が波打ち、雫が少し散った程度だ。

「……ディジー」

「はい」

「刺激が強すぎる」

「お酒の刺激が強すぎるのですか?」

「いや、なんでもない」

 ダンテ様は刺激が強すぎるぐらいに高いアルコール度数と思われる樽酒をグイッと飲み干した。
 私は不安に思いながらも、素晴らしい飲みっぷりに、自分のグラスをテーブルに置いてパチパチと拍手をした。

「ダンテ様、男らしいです。でも、大丈夫ですか? ご無理なさらないでくださいね」

「このぐらい、問題ない」

「新しいお酒をおつぎしますね。あの、エステランドではお祭りの時は、みんなのお酒をついで回るのですけれど、男性にお酒をつぐのははしたないでしょうか?」

「俺になら構わない。だが、他の男にはしてはいけない。絶対に、駄目だ。絶対に」

「わかりました、気をつけますね」

 なるほど、旦那様以外にお酒をつぐという行為は、かなり咎められる部類の行動らしい。
 気をつけて、しっかり覚えておきましょう。

 私は支配人さんの持ってきてくれた樽酒の入ったボトルを手にして、ダンテ様の空になったグラスにこぼさないようにしながら樽酒を注いだ。
 樽酒は樽から瓶に移して売られているのが普通だ。
 樽で熟成されている時にお酒に香りがつく。支配人さんの言っていたとおり、とっておきのお酒なのだろう。
 
 甘いチョコレートに似た香りと、ナッツの香りが混じっている。
 お酒は飲めないけれど、とても美味しそうな香りだ。

「ダンテ様、お酒と一緒にお肉もいかがですか? 内臓の煮込み料理なんて、お酒によく合いますよ、きっと。甘いものも案外合うかもしれません。アーモンドのキャラメリゼも一緒にいかがですか? あっ、オレンジチョコもいいですよね。どれを食べますか?」

「先に食べていい」

「そうですか? では、せっかくなのでいただきますね」

 私はどれにしようかと悩んだ末に、まずはあたたかいものからと、牛串を手にした。
 それに、これを残しておくと、闘牛を見ながら牛肉を食べるという、牛さんたちにとって非常に気まずい状況になりそうだからだ。

 というのもあるけれど、単純に美味しそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...