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ふかふかのベッドと安眠 1
しおりを挟むお腹がいっぱいになり、誤解もとけると、結構単純な私は眠気を感じた。
お酒を飲まない私の夜は早い。
レオと違って夜遅くまで本を読むこともないし、羊毛フェルトをチクチクするのも、編み物をするのも、薄暗い夜の灯りの元ではあまり適していない。
それでもダンテ様がお酒を飲むのなら、ダンテ様がお休みになるまで一緒にいるのが妻の勤めというものだろう。と思う。たぶん。
「ディジー、もう休め」
「でも、ダンテ様。まだダンテ様は起きていらっしゃるのでしょう?」
「君の眠る時間を、俺に合わせる必要はない」
私から視線を逸らしたままダンテ様は冷たい声音で言う。
一見して素っ気ない態度だけれど――本当は私を気遣ってくれているのだろう。
ダンテ様が優しくていい人というのはもう分かっているので、私はその言葉の奥に潜む思いやりを感じてにこにこした。
「ありがとうございます、ダンテ様。では、ロゼッタさんにお願いしてお部屋まで送って貰いますね。お屋敷がとても広くて、迷ってしまいそうなので」
「……仕方ないな。……俺が案内しよう」
「いいのですか?」
「……あぁ」
私が立ち上がると、ダンテ様も立ち上がった。体が大きいせいか、足をがたがたとテーブルや椅子やらにぶつけていた。
痛そうに見えたけれど、ダンテ様は頑丈なのだろう。表情一つ変えなかった。
テーブルの上の食器は、そのままだ。食べっぱなしで置いておくというのはどうにも落ち着かない。
「お片付けを……」
と、聞いてみたけれど、「それは君の仕事ではない」と言われて、私は大人しく頷いた。
公爵家の廊下の壁には、四面体のランプが並んでいて、そのどれもが淡く光っている。
「これは、蝋燭ではないのですね」
背の高いダンテ様の少し後ろを歩きながら、私は尋ねた。
ダンテ様は私よりも頭が一つと半分ぐらいに背が高い。見惚れるほどに立派な広い背中と、長い足と腕。
国や民を守るために鍛えていらっしゃる体だと思うと、余計に惚れ惚れしてしまう。
「あぁ。それは蓄光石。ミランティス領は宝石や鉱物の産地だ。蓄光石もその一つで、日中の光を中にためこんで、暗くなると光る性質がある。夜の灯りとしては十分な光量だろう。ミランティス領では蓄光石がよく使われている」
「わぁ、すごいですね。光を溜め込む石があるのですね。とても神秘的で素敵です」
蝋燭の炎は橙色だけれど、蓄光石の灯りは薄い青色である。
等間隔に並ぶ蓄光石のランプが廊下を照らす様は、未知の洞窟を探索しているようだ。
「それに、炎ではないから火事の心配も減りますし。ミランティス領にだけ普及しているのですか?」
「あぁ。領地以外に出回ってはいないな」
「広く知られるようになれば、きっと皆欲しがりますね」
「宝石は高価だが、蓄鉱石は知名度が低い。それに、蝋燭や油よりも高価だ。皆、蝋燭で十分だと思うだろう」
お値段が高いとなると、少し考えてしまうかもしれない。
けれど、蝋燭や油は使ったらなくなってしまう。
蓄鉱石ならなくならないから、多少高価でも欲しいと思う物ではないかしら。
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