君を愛さない……こともないような、そうでもないようなって、どっちなんですか旦那様!?~氷の軍神は羊飼い令嬢を溺愛する~

束原ミヤコ

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とりあえず誤解がとけるようです

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 そういえば、公爵様とは一体何を召し上がるのかしら。
 私たちとは食べているものが違うのだろうか。

 ダイニングも、テーブルも、テーブルの上の様子もエステランドの家とは何もかもが違う。
 だから、食べるものも違う可能性がある。

「ディジー、そ、その、俺の顔に何か気になるところでもあるのか」

 じいっとご立派な横顔を見つめ続けていたら、ダンテ様とパチリと目があった。
 けれどすぐに逸らされてしまう。

「ごめんなさい。私はディジーではないのに、旦那様の傍に座ってしまって」

「どういうことだ。君はディジーではないのか?」

「ディジーであって、ディジーではないものです」

「何を言っているんだ」

 ダンテ様の眉間の皺が深くなる。
 私はダンテ様から言い出してくれるのを待たなくてはいけないので、これ以上は言えないのだけれど。
 
 どうにも、腰のおさまりが悪い。
 隠しごとをするのはあまり得意ではないのだ。

「……ダンテ様、私に何か言いたいことがあるのではないかと思いまして。近くに座ってみたのです。それに、あちらとこちらでは遠すぎて、お話をするのが難しいですし、あんなに遠い距離でお食事をしたことがないので、なんだか寂しくて」

「寂しいのか。家族の元に帰りたくなったか」

「もちろん家族と離れたのは寂しいですし、動物たちがいないのも寂しいです。でも、今の寂しいは、せっかくのお食事なのにお話もしないのかなって思うと、寂しくてですね。あっ、もしかして、公爵家は食事中に私語禁止ですか? 昔、マナー教室で習ったような、習わなかったような」

「禁止ということはない。話していい」

「よかったぁ。礼儀がなっていない女だって思われたかと、焦りました。もちろん、私の礼儀なんて、あってないようなものだとは思うのですけれど」

 貴族のマナーをきちんと行うよりも、羊の毛刈りの方が得意な女なので、ダンテ様に失礼がないように気をつけてはいるものの、何が失礼で何が失礼じゃないかがよくわからない。

「貴族の方々は広いテーブルの端と端でお食事をするのでしょうか。寂しくはないですか?」

「寂しいと思ったことはない。……食事とは、基本的に一人でするものだ。俺にとっては」

「旦那様、ご家族は?」

「いない。俺が幼い頃に両親は死んだ。それからは一人だ。使用人たちはいたのだがな」

「旦那様!」

「な、なんだ」

「……私、とても耐えられません」

「そんなに俺が嫌いなのか、ディジー」

 ダンテ様のことは少しも嫌いじゃない。むしろ、魅力的な雄であり種馬であり男性だと思っている。
 いい人だもの。
 今は好き嫌いの話をしていない。私が違うディジーだという話をしているのだ。

「そ、その、先ほどは……挨拶を間違えた」

「挨拶? よくわかりませんけれど、私は違うディジーなのです。幼い頃から寂しい思いをしてきた旦那様の寂しさを癒すディジーは私ではなくて。旦那様を騙すようになってしまうのが、とても心苦しくて」

「何をいっているんだ、ディジー」

「ええと、ですから、ダンテ様。私の顔をよくみてください」

「……」

 じっと見つめ合って数秒。
 お顔が綺麗だわと感心しながらも、私は真剣な顔でダンテ様を見つめ続ける。

 見つめ合ってると、「失礼致します」という挨拶と共にロゼッタさんたち侍女の方々が入ってきて、お食事をテーブルに並べてささっと出ていった。

「……っ、見たが、なんだ。どうしたいんだ」

 ダンテ様は私の顔から顔を引き剥がすようにして、視線を逸らす。
 お部屋に美味しそうな香りが漂う。
 テーブルの上にはスープ。何かの黒い粒々の卵のようなものがのっている、柔らかそうなお肉。
 クリームソースがかかったエビなどが置かれている。どれもこれも美味しそうだ。

 お腹が空いたので早く食べたいけれど、先に解決しなくてはいけない問題がある。
 黙っているつもりだったけれど、ダンテ様の寂しい生活を聞いてしまった今はとても我慢していられない。

「どうしたいと言われましても。旦那様のディジーさんは、私とは顔が違うのではないかと思いまして」

「先ほどから意味がわからん。俺が君を間違えるはずがないだろう」

「ですから、旦那様は私と旦那様が本当に結婚したいディジーさんを間違えているのだと思うのです。旦那様はそれに気づいているのに、優しいので、私に悪いと思って言わないのですよね!」

「違う」

「違う?」

「それは、本気か。それとも俺が嫌いだから、そのようなくだらないことを言うのか」

「旦那様のことを嫌いになんてなりません。いい人だと思いますし、素敵な腕の筋肉ですし」

「そ、そうか」

「はい!」

 ダンテ様は自分の腕を軽くさすった。
 それから、腕を組んで眉根を寄せると、天井を仰いだ。

「ディジー。俺は君に結婚を申し込んだ。驚いたとは思うが、俺が結婚をしたい相手とは、君だ」

「羊の毛刈りぐらいしか取り柄のない女ですけれど」

「取り柄などなくていい。俺は、君と結婚をしたい。理解したか」

「間違いではないのですか?」

「そんなわけがないだろう」

 私はしばらく沈黙した。ダンテ様の結婚したい相手が、私とは思わなかったから。
 正直、すごくすごく驚いたし、なんだか少し嬉しかった。

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