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 ディジー、手紙の返事をもらう 2

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 公爵家までは馬車でおよそ一週間程度の道のりである。
 その日の夜、私は自室の机に地図を広げていた。

 オイルランプの橙色の光がゆらめき、部屋に不思議な陰影を作っている。
 地図を広げたのは、家庭教師の先生との授業で使った以来だ。
 国の形なんて、普段の生活では意識しないし、する必要もない。

 けれど、ふと、公爵家とはどこにあるのかと気になったのだ。
 楕円形の形をしているこの国は広く、エステランドは北西の端にある。

 エステランドから南にずっと行った先に、公爵領はある。王領と、隣り合っている場所である。

 私は地図を指先で辿った。
 それから小さく息をつくと、地図を畳む。
 なんとなく、落ち着かない気持ちではあったが、考えても仕方ないと気持ちを切り替えた。

 冬の準備でしばらく忙しい。来るか来ないかわからない返事について悩む必要はないし、たとえば私がダンテ様の本当に結婚をしたい相手ではなかったとして、特に落ち込む必要もない。

 来るか来ないかわからない手紙の返事をサフォン様が持ってきたのは、きっちり二週間後のことだった。

 雪で街道が閉ざされるぎりぎり間際のことである。

 お返事には几帳面な字で、婚約の了承へのお礼と、雪解けを待ち半年後に迎えに来ると書かれていた。

 私は戸惑いながらも、お礼と、よろしくお願いしますという内容の返事を書いた。

 手紙と一緒に、ダンテ様からそれはそれは高価そうな大粒のサファイアのネックレスが送られてきた。

 悩み抜いた末に、私もお手紙の中に羊毛をチクチクして作った小さな羊の人形を入れた。

 どうかと思ったけれど、他に入れることができるものがなにも見つからなかったのだ。
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