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ディジー、婚約の返事をする 2
しおりを挟む宿の前にお父様がたどり着くと、すぐに来訪に気づいてくれたのか、これまた見たこともないような立派な身なりの男性が現れた。
黒いコートに、金の鎖飾り。黒い髪をかっちりオールバックに撫でつけた、寸分の隙もないような美しい男性だった。
この方がダンテ様かしらと一瞬思ったけれど、多分違う。
お父様はお手紙を持ってきたのは、公爵家の従者の方だと言っていた。
「これはこれは、お出ましいただいてありがとうございます。エステランドは寒いでしょう? お部屋に返事を届けようかと思っていました。公爵家の方に泊まっていただけるような場所ではないと、宿のものも恐縮しているようです」
「ご足労痛み入ります、エステランド伯爵様。本来なら私が返事を受け取りにいかなくてはいけないのに。足を運んでいただき感謝します。宿に関しては、大変快適に過ごしています。部屋が暖かくていいですね」
「それはよかった」
「エステランド産の羊毛は有名です。部屋のベッドにも使われているようですが、こちらもとても柔らかくかつ、弾力があって、いいものです」
「わぁ、ありがとうございます! 羊の毛刈りは、とても得意なんです。喜んでいただけて嬉しいです」
私は深々と頭をさげて、公爵様の従者の方にお礼を言った。
「ごめんなさい、ご挨拶もしていないのに。私は、ディジー・エステランドと申します」
「あなたが、ディジー様でいらっしゃいますか。不躾なお願いにも関わらず、お顔を見せていただいてありがたいことです」
「いえ、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」
婚約の打診は間違いなのでは、ディジーさん違いなのではと尋ねたかったけれど、流石に失礼かと思い黙っていることにする。
「私は、ダンテ様の従者の、サフォンと申します」
「初めまして、サフォン様」
「それで、返事の件ですが……」
「娘は、ダンテ様と婚約をすると了承しました。こちらが、手紙の返事です。いやはや、どうしてディジーが……とは思うのですが……」
「それは、私の口からは伝えることはできません。ダンテ様がディジー様を妻にとお望みであると伝えるのが、私の役割ですから」
「そうですな。余計なことを言いました」
「こちらこそ。本来なら主人が出向くべきなのでしょうが」
「そんなことは……公爵閣下と私どもでは身分が違いますから」
お父様は手紙をサフォン様に渡して、ハンチング帽を脱ぐと薄毛を撫でつけた。
「婚約の了承、ありがとうございます。主人もとても喜びます。手紙は必ず持ち帰りますので、ご安心を」
サフォン様はとても綺麗な所作で礼をしてくれた。
私は一体どこで結婚を望んだのは別のディジーさんだったという間違いに気づくのだろうと思いながら、曖昧に微笑んだ。
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