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冷血公爵からの婚約の打診 2
しおりを挟むしばらく無言ではふはふチーズフォンデュを食べていた私たちは、ある程度食べ終えたところで再び顔を見合わせた。
家族だけあって、皆顔立ちがよく似ている。
柔らかいミルクティー色の猫っ毛に、甘栗色の瞳。肌は白いが、髪と瞳の色合いのおかげで、全体的に栗という印象が強い。
お父様がフォンデュフォークを置いて、真剣な表情で胸ポケットから丁寧に折りたたまれた手紙を取り出す。
「どうしよう、ディジーちゃん。ど、どうして、こんな片田舎の伯爵家に、公爵閣下からの婚約の打診がくるのだろう!? お父様、何かしたかな!?」
震える手で手紙を広げながら、お父様が言う。
「何もしていないわよね、何もしていないはずよ。エステランド家なんて名ばかりの家だもの。私は庶民出身だし、オルターは爵位を継いだだけで、農業と林業と動物の世話しかしていないのよ?」
「爵位があることすら忘れそうになるほどですよ。社交界なんて羊の世話と畑の世話が忙しくて行ったことがないですし。王家の舞踏会だって、冬の間はどこにもいけないし、夏の間は畑が忙しいしで行ったことがないでしょう?」
お母様とお兄様は困惑した表情を浮かべて、弟は首を振った。
「そもそも興味もありませんし」
「あら、困ったわね。レオには王都の学園に通って貰おうと思ってたのに」
「そうだぞ、レオ。お前はあたまがいい。学校に行くべきだ」
「僕も羊の世話がしたいです」
「レオ君の将来はともかく、今はディジーちゃんの婚約の話だ」
それた会話を、お父様が戻した。
「あの、お父様……婚約の打診をしてくださった、ダンテ様とは、どんな方なのでしょうか……?」
今日の朝、ミランティス公爵家から手紙が届いた。お父様が手にしている手紙である。
手紙の内容は、ダンテ・ミランティス公爵閣下から、私への婚約の打診だった。
几帳面な文字で『ディジー・エステランド嬢と婚約をしたい』と書かれていたのだ。
私はダンテ様を知らない。お会いしたこともない。
お兄様や両親がそうであるように、私も領地から一度も出たことがない。
十七になる今の今まで、毎日牧草を刈り、にんじんやトマトを育て、チーズを作り、羊の毛を刈り牛の乳を搾り、暮らしてきたのだから。
「ダンテ様とは……実はお父様もよく知らないんだ。エステランド伯爵といっても、僕はもうほぼ農夫だし。エステランドは住んでいる人よりも羊の数のほうが多いぐらいの田舎だ。貴族の情報などないに等しい。ただ、噂では……」
「ミランティス冷血公爵――と呼ばれているらしいわ」
「笑ったことが一度もない、厳しい方なのだとか」
「どうしよう、お姉様。怖い人だよきっと! 結婚なんてしないほうがいいよ」
皆の視線が一斉に私に向く。
子羊のエメルダちゃんまでもが私を見上げて「めー」と鳴いた。
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