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第一章 マユラ、錬金術師になる
治療のポーションは全ての基本
しおりを挟む『治療のポーションの素材一覧』
・ルブルランの葉
・生命の雫
・黄金キノコ
『治療のポーションとは、ごく簡単で単純な錬金魔法具である。だが全ての基本だ。上質な治療のポーションは飲んだものの傷をふさぎ、折れた骨や潰れた内臓までを再生させる効果があるが、粗悪なものでは切り傷を治す程度だ。上級ポーションを作ることができる者は、全ての錬金魔法具を作ることができるといっても過言ではない』
アルゼイラの残した記録書の治療のポーションのページを確認して、マユラは気合いをいれなおした。
初歩のポーションの重要性は重々理解できた。
テーブルに広げた本を覗き込んだレオナードは、不思議そうに首を傾げる。
「この本は、俺には読めない。何も書いていないように見える」
『そういう作りだ。才のないものには見えないようになっている。危険故な』
「なるほど」
「私も見ることができるのは、ほんの少しだけなんです」
アルゼイラの記録書は、魔力がない者には全く見ることができないようだ。
たとえばそんなに危険な錬金魔道具について書かれているこの書が、才能のある悪人の手に渡ってしまったらとても危険なのではないだろうか。
だからこそ、厳重な封印をアルゼイラは記録書にかけているのだろうが。
そのあたりの話はまた今度尋ねよう。
マユラは素材をテーブルに並べると、まずはルブルランの葉を錬金釜に入れた。
それから、瓶の中に入っている生命の雫。
これは美味しいので、一粒食べた。せっかくなので、レオナードにも「美味しいですよ」と差し出した。
レオナードは一瞬驚いたように目を見開いたあと、姿勢をやや低くして口を開いた。
これは食べさせてくれということなのだろう。マユラはレオナードの口の中に丸くてぷにぷにした生命の雫をぽんっと入れる。
「ありがとう、美味しい」
「どういたしまして。何個でも食べてしまいそうな美味しさなのですよね、生命の雫」
『つまみ食いをするな。早く作業をすすめろ』
「すみません」
師匠に叱られたマユラは、生命の雫をぽとりと錬金釜の中に落とす。
素材を入れる度に錬金釜の中の水が不可思議な波紋を広げて、その色合いが赤から青に変化していく。
黄金キノコを入れて、ぐるぐると木製の撹拌棒でかきまぜる。
『撹拌棒から、魔力を流せ。微量でいい。素材の持つ魔素と、そして水の中の魔力が反応して、新たな形が作られる。このとき、お前の作りたいものを心で念じろ。全ての魔法に共通することだが、想像が、形となるのだ』
「わかりました」
師匠の低く落ち着いた声音に耳を傾けながら、マユラは言われたとおりに魔力を撹拌棒に流す。
治療のポーションを好きなように作っていいのだとしたら──どんな形がいいだろうか。
ポーションとは瓶詰めの液体である。
だが、瓶は重いし、割れたら中身がこぼれてしまう。
熱が高いときは、どろっとした液体をたくさん飲みたいとは思えないだろう。
「小さな砂糖菓子なら、食べやすいのではないかしら」
たとえば、ラムネのような。
マユラはヴェロニカの街で子供たちがマユラにくれたお菓子について思い出す。
あの砂糖菓子は、小さくて甘くて、口の中でしゅわっと溶けて、とても食べやすかった。
それに、形もとても可愛かった。
どんな形がいいだろう。
錬金釜をかき混ぜながら、マユラは周囲を見渡した。
テーブルの上では、師匠が腕を組んでマユラをじっと見つめている。
そうだ、猫がいい。
商品には特徴が必要である。特徴のある形なら、マユラが作ったということがすぐにわかるからだ。
猫ちゃんの姿を念じると、錬金釜が輝きだした。
体から魔力が失われる感覚があるが、身のうちにはもっと沢山の魔力があることを感じる。
上手く魔法を仕えなかった時には感じなかったものだ。
自分の中にある魔力の存在をきちんと認識できるような、不思議な感覚だった。
「できました!」
錬金釜の中に、ぷかりと、小さな粒が浮かんだ。
それは指先でつまめるほどの小ささの、猫の顔の形をしたラムネ菓子のようなもの。
マユラはそれを指で摘まむと、師匠とレオナードに見せる。
『……なんだそれは』
「治療のポーションです」
『私が作れと言ったのはポーションだ、菓子ではない』
「治療のポーションですってば」
マユラの言葉をまるきり無視する師匠に、マユラは必死に言いつのる。
ポーションの材料でポーションを作ったのだから、これはポーションである。
「俺の知っている治療のポーションは、片手で持てる程度の瓶に入っている緑色の飲み物だが」
「飲むの、大変ですよね。持ち運びも、瓶だと重たいですし。これなら、場所もとらないですし、食べるのも簡単です」
「確かに」
『肝心なのは効き目だ。そんなものが効くとは思えんがな』
マユラは疑いの眼差しを向けてくる師匠に治療のポーションの効果を証明するために、ぱくっとできたてのポーションを口に入れてカリッと噛んだ。
生命の雫の味によく似た甘みが口に広がり、すぐにしゅわっととけていく。
こくんと飲み干すと、体がじんわりとあたたかくなるのを感じた。
「傷が治っていれば、成功ですよね?」
マユラは自分の腕の包帯をするりとはずす。
ぱっくりとさけていた皮膚が、瞬く間に元のつるりとしたなめらかなものへと戻っていった。
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