追放された公爵令嬢は、流刑地で竜系とソロキャンする。

束原ミヤコ

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追放された公爵令嬢はみんなでファミリーキャンプする 

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 人を恨んだり、羨んだり、憎んだり。
 自分が不幸だと感じたり。不幸な自分のやるせない気持ちを、誰かに怒りとしてぶつけたり。

 そういう部分が、私の中にも全くない、というわけじゃない。

 けれど、大自然と一体化できるキャンプにおいて、人の立場や感情などちっぽけなものだ。
 そんなものに雁字搦めになっているレヴィナス様は、キャンプ枯渇の状態に陥っているに違いない。

 私たちは、大騒ぎするレヴィナス様を強制的にキャンプに参加させた。

 レヴィナス様と一緒に釣りをして、温泉に入って、砂浜で模擬試合をする。
 アリアネちゃんの聖女チョップにさえ勝てないレヴィナス様は、リベンジを夕日に向かって誓っていた。

 畑を耕し、海に潜り、一緒に食事を作る。
 レヴィナス様の表情は次第に柔らかくなり、焚き火を囲んで皆で歌を歌うようになると、ユリウス様とレヴィナス様の蟠りは、すっかり無くなっているようだった。

 けれど――楽しい時間は永遠には続かない。

 キャンプをはじめてから数週間。
 ついに王都から、飛空艇でお迎えが来てしまった。

 砂浜に着地した飛空艇から、死にそうにやつれた国王陛下と宰相閣下が降りてきて、どうか王都に帰ってきてくれと頼み込まれたので、私たちは帰ることにした。

「ルーベンス先生は、一緒に来てくれないのですか?」

 仕方なく飛空艇に乗り込む私たちに、ルーベンス先生とユマお姉さんが手を振っている。

 私たちは血は繋がっていないけれど、もう心は家族である。
 離れ離れになってしまうのは、とても寂しい。

 ヴィルヘルムは私の腕に抱かれて、ユマお姉さんから視線そそらしている。
 ヴィルヘルムも寂しいのだろう。

「いつかまた会おう、リコリス君。そして、アリアネ君と、ユリウス君。レヴィナス君もな。俺たちは家族だ。困ったことがあれば、いつでも助けに行こう」

「師匠。師匠に教わった優しさと強さ、けして忘れません」

「ルーベンスお父様、お元気で!」

「父上。いつでも城に遊びに来てください」

「あぁ! お前たちも元気でな!」

 ルーベンス先生は、現れた時と同じように、砂浜まで迎えに来た大きな鯨の背中にユマお姉さんと一緒に乗って、水平線の向こうに消えていった。

 飛空艇も空に浮かび上がる。
 楽しかった思い出深いキャンプ地が、徐々に小さくなっていく。

「兄上。今まで申し訳ありませんでした。これからは兄弟仲良く、国をおさめていきましょう。王都に戻ったら、リコリスと挙式を上げるのでしょう?」

 飛空艇の窓辺で東の荒地を眺めながら、レヴィナス様が言う。
 ユリウス様は私の背中に手を回しながら、力強く頷いた。

「国王の座は、レヴィナスに渡す。俺は、オリアニス公爵家でリコリスと共に暮らそうと思う」

「ユリウス様? どうして……」

 私は驚いてユリウス様を見上げた。

「最初からそうしていれば良かった。俺も視野が狭くなっていたようだ。オリアニス公爵とアリアネを二人にはできない。俺とリコリスがオリアニス公爵家を継いで、アリアネはいつか好きな相手ができたら、嫁ぐと良いし、ずっと俺たちと共に家にいても良い」

 ユリウス様は、アリアネちゃんとお父様がうまくいっていないことを分かっているのだろう。
 アリアネちゃんは感動したように瞳を潤ませて、私の腕にしがみついてぐすぐすと泣き出した。

「俺はレヴィナスを信用している。きっと、良い国を作ってくれるだろう。それに、国王という立場では、自由にキャンプに行くことは難しい。週末はキャンプに行きたい。子供は十人欲しいしな。俺は十人の子供達とリコリスと、ヴィルヘルム。そしてアリアネと、週末キャンプ生活を送りたい。だから、レヴィナス。あとは任せた」

「……仕方ないですね」

 レヴィナス様は困ったように笑った。
 私はユリウス様に思い切り抱きついた。

 アリアネちゃんも私とユリウス様にぎゅっとしがみついてくる。
 私たちに挟まれたヴィルヘルムが、苦しそうにもがいた。

「おい、リコリス。お前たちの決意はわかったが、そんなことよりもエリアル・バーベキューだ」

 ぐりぐりと体を捩って私たちの間から出てくると、ヴィルヘルムが得意気に言う。
 私はヴィルヘルムを見上げて、にっこり微笑んだ。

「バーベキューもありますし、スイーツもありますし、うどんやパスタ。ヴィルヘルムの知らない食べ物が、まだまだたくさんありますよ!」

「俺はお前たちの命が尽きるまで、お前たちの守護者になると誓った。料理を食べる時間は、まだたくさんあるな」

「はい!」

 王都に帰ったら、ユリウス様とアリアネちゃんにうどんを作ってあげよう。
 きっとヴィルヘルムも気に入ってくれるだろう。

 私たちは、家族。

 飛空艇から見える青空に、サムズアップしているルーベンス先生の笑顔が浮かんでいる気がした。





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