上 下
75 / 82

蛍マグロのマグロ丼 1

しおりを挟む


 蛍マグロの切り身を、お米が炊き上がるまで氷の貯蔵庫に入れておいて、神竜の土鍋でお米を炊いた。

 ルーベンス先生の話では、ユマお姉さんも本体が巨大な青竜のためか、よく食べるらしい。

 そのため、土鍋はかなり大きめのものを準備した。
 土鍋が武器になるのか、という疑問は、釣り竿が武器と認識される時点で愚問なので、抱かないことにしておいた。

 カマドに土鍋をおいてお米が炊き上がるまでの間、ユリウス様とルーベンス先生は砂浜で筋肉トレーニングのための模擬試合を行ない、私は火の番を代わってくれると言うアリアネちゃんの優しさを、申し訳ないけれどお断りして、カマドの火の調節を行なっていた。

 アリアネちゃんが火の前に立ったら、アリアネちゃんのお世話をしている動物さんたちが、炎に飛び込んでしまうかもしれないし。

「お前、どうしてそのような姿をしているんだ、ユイマール」

 私がカマドの火加減の調節をしていると、ヴィルヘルムを抱えたユマお姉さんが隣にやってきた。

 しばらく三人で静かに炎を見つめていたけれど(私は炎を見ながらちらちらルーベンス先生を見ていたけれど)、ヴィルヘルムが沈黙に耐えかねたのか、それとも退屈だったのか、口を開いた。

「ユマお姉ちゃんと呼んでも良いのよ、ヴィルヘルム」

「呼ばない。そもそもユイマールも俺と共にラキュラスが創ったのだから、俺と年齢は一緒だろう」

「今の私はキャンプアイドル、メスティン・ユマお姉さんなのよ。ちなみに二十四歳よ」

「二万四千歳の間違いでは」

「もっと若くても良かったんだけど、キャンプアイドルはあまり若すぎると、キャンプ愛好家の皆様から支持して貰えないらしくて」

「俺の話を聞いていたか、ユイマール」

「年齢の話はともかく、以前ルーベンス先生と共にこの地にキャンプをしにきた時、ヴィルヘルムは私に全く気づかなくて、ルーベンス先生が私の漢女だということにも気づかなくて、私はとっても寂しかったのよ?」

 ユマお姉さんが悲しそうだ。

 そういえばヴィルヘルムは、ルーベンス先生がキャンプをしている姿を見てから料理に興味を持ったんだったわね。
 つまり、ルーベンス先生には一度会っている。

 同じ神竜と、その漢女なのだから、気配とかでわからないのかしら。

「ルーベンスのことは覚えているが、お前もいたのか?」

 わからないらしい。

「いたわよ。アシスタントとして、一緒にいたわよ?」

「覚えていない。お前が人間体になどなっているから悪い。何故俺たちよりも下等な人間の姿に」

「ヴィルヘルムだって、幼体じゃない」

「俺はマスコットキャラクターだからな」

「私もアイドルだからとしか答えようがないわね」

「ええと、ユマお姉さんはアイドルになりたかったんですか?」

 視線の先に、爽やかな汗を流すルーベンス先生とユリウス様。
 どちらにときめいたら良いか分からなくなってやや混乱していた私は、心を落ち着かせるために疑問を口にした。

「なりたかったというか、ルーベンス……、いえ、ルーベンス先生と契約をしてから、色んな場所に連いていくのに、人間の姿の方が都合が良くて。人間体でルーベンスのそばでキャンプの手伝いをしていたら、気づいたらキャンプアイドルになっていたというわけなの」

「そんなことがあるのか? 太古の神竜が? 俺がおじいちゃんなら、お前もおばあちゃんだろう」

「ヴィルヘルム、何もわかっていませんね。ユマお姉さんとは、週末仕事疲れのおじさまたちや、キャンプ愛好家の皆様、それからファミリーも一家全員揃って笑顔で見ていられる、爽やか癒し系のキャンプアイドルなのですよ」

「褒め上手ね、リコリスちゃん」

「私の目指すべきキャンプアイドルの姿だと、思っていました。今までは」

「今までは?」

「はい。でも、ルーベンス先生に会うという夢が叶ってしまいましたので、今の私はソロキャンアイドルではなく、神竜の乙女であり、ユリウス様の婚約者のリコリスです」

「恋ね!」

「はい……!」

 私は力強く頷いた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!

榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。 理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。 そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ? まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

処理中です...