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蛍マグロのマグロ丼 1
しおりを挟む蛍マグロの切り身を、お米が炊き上がるまで氷の貯蔵庫に入れておいて、神竜の土鍋でお米を炊いた。
ルーベンス先生の話では、ユマお姉さんも本体が巨大な青竜のためか、よく食べるらしい。
そのため、土鍋はかなり大きめのものを準備した。
土鍋が武器になるのか、という疑問は、釣り竿が武器と認識される時点で愚問なので、抱かないことにしておいた。
カマドに土鍋をおいてお米が炊き上がるまでの間、ユリウス様とルーベンス先生は砂浜で筋肉トレーニングのための模擬試合を行ない、私は火の番を代わってくれると言うアリアネちゃんの優しさを、申し訳ないけれどお断りして、カマドの火の調節を行なっていた。
アリアネちゃんが火の前に立ったら、アリアネちゃんのお世話をしている動物さんたちが、炎に飛び込んでしまうかもしれないし。
「お前、どうしてそのような姿をしているんだ、ユイマール」
私がカマドの火加減の調節をしていると、ヴィルヘルムを抱えたユマお姉さんが隣にやってきた。
しばらく三人で静かに炎を見つめていたけれど(私は炎を見ながらちらちらルーベンス先生を見ていたけれど)、ヴィルヘルムが沈黙に耐えかねたのか、それとも退屈だったのか、口を開いた。
「ユマお姉ちゃんと呼んでも良いのよ、ヴィルヘルム」
「呼ばない。そもそもユイマールも俺と共にラキュラスが創ったのだから、俺と年齢は一緒だろう」
「今の私はキャンプアイドル、メスティン・ユマお姉さんなのよ。ちなみに二十四歳よ」
「二万四千歳の間違いでは」
「もっと若くても良かったんだけど、キャンプアイドルはあまり若すぎると、キャンプ愛好家の皆様から支持して貰えないらしくて」
「俺の話を聞いていたか、ユイマール」
「年齢の話はともかく、以前ルーベンス先生と共にこの地にキャンプをしにきた時、ヴィルヘルムは私に全く気づかなくて、ルーベンス先生が私の漢女だということにも気づかなくて、私はとっても寂しかったのよ?」
ユマお姉さんが悲しそうだ。
そういえばヴィルヘルムは、ルーベンス先生がキャンプをしている姿を見てから料理に興味を持ったんだったわね。
つまり、ルーベンス先生には一度会っている。
同じ神竜と、その漢女なのだから、気配とかでわからないのかしら。
「ルーベンスのことは覚えているが、お前もいたのか?」
わからないらしい。
「いたわよ。アシスタントとして、一緒にいたわよ?」
「覚えていない。お前が人間体になどなっているから悪い。何故俺たちよりも下等な人間の姿に」
「ヴィルヘルムだって、幼体じゃない」
「俺はマスコットキャラクターだからな」
「私もアイドルだからとしか答えようがないわね」
「ええと、ユマお姉さんはアイドルになりたかったんですか?」
視線の先に、爽やかな汗を流すルーベンス先生とユリウス様。
どちらにときめいたら良いか分からなくなってやや混乱していた私は、心を落ち着かせるために疑問を口にした。
「なりたかったというか、ルーベンス……、いえ、ルーベンス先生と契約をしてから、色んな場所に連いていくのに、人間の姿の方が都合が良くて。人間体でルーベンスのそばでキャンプの手伝いをしていたら、気づいたらキャンプアイドルになっていたというわけなの」
「そんなことがあるのか? 太古の神竜が? 俺がおじいちゃんなら、お前もおばあちゃんだろう」
「ヴィルヘルム、何もわかっていませんね。ユマお姉さんとは、週末仕事疲れのおじさまたちや、キャンプ愛好家の皆様、それからファミリーも一家全員揃って笑顔で見ていられる、爽やか癒し系のキャンプアイドルなのですよ」
「褒め上手ね、リコリスちゃん」
「私の目指すべきキャンプアイドルの姿だと、思っていました。今までは」
「今までは?」
「はい。でも、ルーベンス先生に会うという夢が叶ってしまいましたので、今の私はソロキャンアイドルではなく、神竜の乙女であり、ユリウス様の婚約者のリコリスです」
「恋ね!」
「はい……!」
私は力強く頷いた。
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