追放された公爵令嬢は、流刑地で竜系とソロキャンする。

束原ミヤコ

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海から来るは海坊主 1

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 クラーケンに海の中に引き摺り込まれた時、私は蛍マグロを見ている。
 蛍マグロとは、頭のてっぺんが蛍のように光る大型の回遊魚で、煮付けやお寿司やお刺身にすると絶品である。

 昔は生魚は、採れたてのものしか食べることができなかったので、マグロ丼と出会えるのは港町ぐらいだったけれど、徐々に技術が発達した今となっては王都や公爵領にも蛍マグロの切り身が出回るようになってきている。

 私が初めてマグロ丼を食べたのは、学園の食堂である。
 お魚の切り身がこんなに美味しいのかと、感動したことを覚えている。

 それ以来ユリウス様を見るたびに、マグロ丼を思い出す体質になってしまった。
 マグロ丼も美味しかったけれど、牛丼も美味しい。結局白米の上に何か乗っけて食べるのが、一番美味しいのである。

 アリアネちゃんは米よりもうどん派なので、「温泉卵のせ釜揚げうどんが一番美味しいのですわ」と常々言っている。
 ちなみにユリウス様は「リコリスの姿を眺めがら食事ができるのなら、食事の内容などはなんでも良い」らしい。

「さて、釣りをしましょう。神竜の剣は釣り竿になどはなれますか?」

 私は料理が一段落したので役目を終えていた神竜の剣を胸から取り出して、尋ねてみる。
 私の胸からすらりと引き抜かれた神竜の剣は、待っていましたと言わんばかりに、立派な釣り竿に形を変えてくれた。

「釣り竿も武器なのですね、ヴィルヘルム。ありがたいですけれど、釣り竿で戦うことができますでしょうか」

「戦えるだろう。釣り竿でも。十分戦える」

「武器というのは、奥が深いですね」

 ユリウス様の肩にちょこんと乗っているヴィルヘルムが、訳知り顔で「釣り竿は先に針がついているからな」と言っている。

 確かに神竜の釣り竿の釣り糸の先端には、凶悪に尖った針がついている。
 アリアネちゃんは私の体から剣がにょきっと出てきたことについては、あまり驚いていなかった。

 にこにこしながら、「神竜に選ばれし神竜の乙女のお姉様は、聖女の私と一心同体」と喜んで、ユリウス様を悔しがらせていた。

「さぁ、お姉様。アリアネの聖女ミラクルパワーを見せつけるときがきましたわ! 餌もつけずに、蛍マグロを見事釣りあげて見せましょう!」

「それは果たして釣りと言えるのか、疑問ではありますが、使えるものは何でも使え、遠慮はするな! と、ルーベンス先生も言っていますし、お願いしますね」

「俺が海に潜って、蛍マグロを生け捕りにしてきても良いんだが」

「せっかくアリアネちゃんの聖女ミラクルパワーがあるのですから、ユリウス様は少し休んでいてくださいな。四つ首ダチョウやクラーケンと戦って頂きましたし」

「俺が格好良い所を、もっとリコリスに見せたい」

「もう十分格好良いので大丈夫です」

 これは本心から、そう思っている。

 ユリウス様は素敵だ。波風になびく赤髪も、すり切れた軍用コートが似合う立派な体躯も、全て素敵。
 私が褒めると、ユリウス様は嬉しそうに「そ、そうか」と言って、にっこりした。

「恋愛脳王太子殿下撲滅脳天チョップの出番ですわね」

「アリアネちゃん、ごめんなさい。お姉様も恋愛に現を抜かしていました。お姉様にもチョップをして良いですよ」

「恋する乙女のお姉様は天使のごとく愛らしいので推定無罪、無罪確定です」

 アリアネちゃんは私に甘い。
 それもこれも、多分幼いときからまともな家族、と呼べる人間が私しかいなかったからだろう。


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