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聖女の力は肉体言語 2
しおりを挟むユリウス様も私を助けにきてくださったときに、ヴィルヘルムが私に何かしたのではないかと言っていた気がするけれど、私を心配してくれていると思えば有難いことだ。
「わかりませんわ! お義理兄様、私がいないのを良いことに、可憐にして清純にして気高く誰よりも尊い私のお姉様に、獣の本能を剥き出しにしたのでは! 許しませんわ、アリアネの聖女パイルドライバーの出番がとうとうやってきてしまったようですわね」
「何をしにきたんだ、アリアネ。俺とリコリスの邪魔をしにきたのか。良いか、アリアネ、俺とリコリスは、新生リコリス帝国の初代皇帝夫婦になる。俺はリコリスを大切にしているからな、不用意に触れたりなどはしないが、将来的には夫婦になるのだから、お前に文句を言われる筋合いはない」
ユリウス様が、腕を組んでアリアネちゃんを睨み返す。
まだユリウス様には余裕があるようだ。口調がいつも通りなので。
アリアネちゃんがあまりにユリウス様に絡む時は、流石のユリウス様も「黙りやがれ、聖女! お前の趣味の悪いキャットスーツを騎士団の制服にして、お前と筋骨隆々な加齢臭のする中年たちをペアルックにしてやるからな!」などと言っておキレになることがある。
アリアネちゃんは、これを言われると弱い。
なんせエナメルキャットスーツはアリアネちゃんにとっては、憧れのキャットファイトクララの象徴なので、騎士団の制服にされるわけにはいかないのだ。
ビシッとユリウス様に言い切られて、アリアネちゃんはえぐえぐ泣きながら悲鳴をあげた。
「いやぁああ! 私のお姉様について不埒な想像をするだけでも罪深いのに! 変態、獣、最低ですわ!」
悲鳴をあげるアリアネちゃんの背中を撫でて、どうどう、と宥めた。
「アリアネちゃん、落ち着いてください。そんなことよりアリアネちゃん、はじめましてなのできちんとご挨拶をしましょうね。こちらはヴィルヘルム。神竜のひとり、白竜ヴィルヘルムです」
「……お前がラキュラスの聖女か」
ヴィルヘルムは、アリアネちゃんが怖いのか、ユリウス様の腕の中にすっぽりとおさまりながら言った。
ヴィルヘルムはずるくないだろうか。
ユリウス様の腕の中にいるべきは、婚約者の私なのではないかしら。
私はちょっとムッとした。
ヴィルヘルムの今日の朝食は卵の殻にしよう。それが良いわね。
「はじめまして、私はアリアネ・オリアニスですわ。全お姉様だけの、全お姉様を守る聖女、キャットファイトアリアネとは私のことです」
「お前たち姉妹は、妙な通り名がないと気が済まないのか」
「それは、俺の愛しのアイドル、スキレット・リコリスのことですか、親父殿」
「お前もきちんと認識しているのだな。偉いな、ユリウス」
「当然です。リコリスは常に俺の心の中で燦然と輝く俺だけのアイドルですから」
ヴィルヘルムとユリウス様が何やらこそこそと話している。
ユリウス様と内緒話をするとか、ヴィルヘルムはずるいのではないかしら。
ヴィルヘルムの今日の朝ごはんは、ぶつ切りクラーケンにしよう。
きっとゴムタイヤみたいな味がするに違いない。
私は先ほどから感じている苛々を落ち着かせるために、青い空を見上げた。
どうして大自然の中にいるのに、苛々しているのかしら、私。
恋というのは、困ったものね。
「白竜ヴィルヘルム……ラキュラス様の記憶の中にありますわね。白、赤、青、黒。四体の神竜。国を守る大いなる力。つまり、ヴィルヘルムはラキュラスの聖女である私の守護者」
アリアネちゃんが私の胸に頬をぐいぐい押し付けながら、生真面目な口調で言った。
ヴィルヘルムにきちんと挨拶ができる、ちゃんと聖女という自覚のあるアリアネちゃん。偉いわね。
「あぁ。聖女を守るため、神竜の乙女を選定し力を授けるのが、俺たちの役割だ。そして俺は、白竜の乙女に、リコリスを選んだ」
「なんていうことですの! お姉様が、白竜の乙女!」
「ええ。ふつつかな白竜の乙女ですが、よろしくお願いしますね、アリアネちゃん。今まではアリアネちゃんに守ってもらってばかりいたお姉様だけれど、今度は私がアリアネちゃんを守りますね」
「お姉様! やはり私とお姉様は運命の赤い糸でぐるぐる巻きにされているに違いありませんわ! そこのお義理兄様の入り込む隙などないほどに! 新生リコリス帝国の初代皇帝になるお姉様を支えるのは、この私! お義理兄様にはその辺のオブジェの役割を与えて差し上げましょう」
「アリアネ、先にリコリスを見つけたのは俺だ。流刑にされたリコリスの元に真っ先に駆けつけたのは、俺。遅れてきたくせに、新生リコリス帝国の重要な地位につけると思うな。そもそも、お前がリコリスに罪をなすりつけたのではないか?」
ユリウス様が、疑いの視線をアリアネちゃんに向ける。
アリアネちゃんがそんなことをするわけがないのに。
私は流石に、ユリウス様に文句を言おうかと口を開いた。
けれどその前に、アリアネちゃんが「どうしてそれを……!」と、はじまって四十分経ったぐらいのサスペンスドラマの犯人みたいな表情で言った。
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