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与えられた魔力 1
しおりを挟むどれほど、辛かっただろう。
まだ幼いユリウス様がそのような目に――それも、自らのお母様によって、合わされてしまったなんて。
魔力を持たなかったユリウス様にとって、身に余る魔力を体に強引に押し込まれることがどれほど苦痛なのか、想像するだけで怖気がするぐらいに、恐ろしい。
自分の子供にそのような呪いを与えなければいけないぐらいに、王妃様は追い詰められていたのかしら。
「苦しかったですね、ユリウス様。どれほどお辛かったでしょう」
どれほど言葉を紡いでも、ユリウス様の心を慰めることなんてできないだろう。
それでも何か伝えたくてやっと絞り出した言葉は、あまりにも空虚だ。
私に何ができるだろう。
ユリウス様のために。
もしかしたら、できることなんて何もないのかもしれない。今はただ、手を繋いでいることしかできない。
ユリウス様は、優しく私に微笑んで下さった。
「辛い話を聞かせて、すまない」
「良いのです。私は、ユリウス様のことが知りたい。私の知らないユリウス様のこと。教えてください」
「……あぁ、ありがとう。……あれは、四歳の頃だっただろうか。賢者の石を身の内に受け入れた俺は、人の形を保っていられずに、不恰好な泥人形のようになった。魔力が身に馴染むまで、半月ほどはかかっただろうか。その間、ニーナは国から連れてきた己の味方の魔導士たちや侍女達と結託して、俺を後宮の奥に隠していた」
「……ユリウス様は生まれつき特別な魔力をお持ちだと、今は皆、知っています。それなのに、そんなことが……」
「公には、生まれつきの魔力量が多すぎて、魔力が暴走するのを抑えるために、それを自ら制御できるようになるまで魔導士たちの管理下に置かれた、ということになっている。ニーナは上手く立ち回ったのだろう。ニーナというか、ニーナの側近たちが賢かったというべきだろうか。誰も、それを疑うようなことはなかった」
「ユリウス様が我が家にいらっしゃったのは、私が十歳の頃、ユリウス様は十一歳の頃、でしたね」
「君は気づいていただろうが、俺はニーナから、聖女アリアネと婚約しろと命令をされていた」
「ええ、なんとなくは。王家としては、国のためにアリアネちゃんを王家の近くへと置いて置きたかったのでしょう。ユリウス様も、アリアネちゃんを婚約者にするためにいらっしゃったのだと思っていました。そうしたら、私がユリウス様の婚約者になっていたので、驚きましたけれど」
このことについてユリウス様と話をしたのははじめてだ。
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