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家具職人ユリウス様 1
しおりを挟むヴィルヘルムは目の前に置かれた小山のような、プルルンとした黄金色の巨大オムレツに、目を輝かせている。
再び調理に取り掛かる私と、木を削り続けているユリウス様の方をちらちら何か言いたげな瞳で見るので、私は「先に食べていて良いですよ」と言った。
「しかし、しかしだな、先に食うというのは、どうにも」
「親父殿は腹が減っているのでしょう。殻ごと卵を食うぐらいですからね。俺たちのことは気にせず、召し上がってください」
「そうか、そうか、良いのか、そんなに言われては仕方ないな」
ユリウス様にも気を使われて、ヴィルヘルムは溜息混じりに言った。
やれやれ、とでも言いたげな雰囲気だけれど、かなり嬉しそうだ。
朝食からずっと待っていたのだから、やっと二度目の食事ができて余程嬉しいのだろう。
(創生の時代から生きていて、やっとまともな食事ができるのよね。それは、嬉しいわよね)
確かにそう考えれば、食事に対する熱意は、微笑ましくさえある。
ヴィルヘルムはがつがつもくもくと、キノコオムレツを食べた。
器用に手でお皿を押さえながら、お皿の中に顔を突っ込んで食べているのが可愛い。
声は渋めの低い男性のものなのに、喋らなければ子犬のようだ。
ヴィルヘルムがキノコオムレツを食べている間に、私は再び同じキノコオムレツを作った。
出来上がったものをユリウス様が作った木彫りのお皿に乗せる。
半分以上オムレツを食べ終えているヴィルヘルムが物欲しそうにそれを見たけれと、二枚目のオムレツはユリウス様のものなので渡さなかった。
さらに残った卵液でもう一枚オムレツを焼く間に、空になったボールをお鍋に変えて、水魔法で水を注ぐと、干した鬼マタンゴをその中にポイポイ入れた。
それから三枚目のオムレツをお皿に移してフライパンを火から下ろすと、その代わりにお鍋をカマドの上に乗せた。スープを仕込むためである。
昨日のスープが残っていれば良かったのだけれど、ヴィルヘルムが全て食べてしまったので、仕方ない。
できあがるまでに時間がかかるだろうから、スープは夕食にしようかしらね。
とりあえず、遅い朝食兼昼食を食べてしまおう。
「ユリウス様、お待たせしました。ヴィルヘルムはもう食べ終わったのですか、お味はどうでしたか?」
ひとまずの調理を終えて振り向くと、ユリウス様が何かをやり切ったような良い笑顔を浮かべていた。
先ほどまで岩のテーブルとドレスの敷物があっただけの拠点なのに、そこにあったのは一枚木の立派なテーブルだった。
テーブルの足には岩が二つ使われていて、どっしりとして安定しているように見えるのは、テーブルに使われている木がかなり分厚く切られているからだろう。
そのテーブルの上に、木製のお皿が二枚並んでいる。
お皿の上にはプルプルのオムレツ。
その横には、こちらも木を削って作った、丸みを帯びていて愛らしいナイフとフォークが置かれている。
「料理をありがとう、リコリス。俺は料理はできないからな、その代わりにテーブルなどを作ってみたが、どうだろうか」
「テーブルよりも料理だろう、ユリウス。幸い卵がもう一つ残っているぞ。喜べ、リコリス。俺はまだ食える」
ヴィルヘルムのお皿は空である。
空のお皿を前にして、ヴィルヘルムはテーブルに顎を乗せながら不満げに言った。
テーブルの横には丸太を切り出して作った椅子が並んでいる。
いつの間にかヴィルヘルムは、その椅子に上にちょこんと座っていた。
「もう食べたでしょ、おじいちゃん」
「俺の本来の姿を忘れたのか、リコリス。俺の胃袋がこの程度の卵で満たされると思うな」
「胃袋を満たすために小さくなったのではないのですか、ヴィルヘルム。そんなことよりも、ユリウス様、この短時間でこんなに木製家具を作るなんて、ユリウス様は家具職人の才能があるのですね」
「リコリスに褒められた……やはりここは楽園なのだな……。時間がなく、まだ完成というには程遠いが、最終的には二階建てのログハウスを作るつもりだ」
「キャンプとは、という疑問が頭をよぎりますが、ログハウスは良いものです。楽しみにしていますね」
キャンプといえばまずはテントなのではないかしらと思ったけれど、ユリウス様は木の加工が得意なようなので、ユリウス様用の木のお家を作って貰えば良いかと考え直した。
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