37 / 82
鬼マタンゴキノコ四つ首ダチョウ金の卵オムレツ 2
しおりを挟むぽっかりと空いた穴から中を見ると、中にはたっぷりと透明な白身の中に、まんまるい黄色い黄身が浮かんでいる。
鳥の卵を巨大にしただけ、という見た目である。
それをボールの中に入れて、鬼マタンゴと一緒にかき混ぜる。
黄色味の強い鮮やかな卵液が出来上がり、再びフライパンに流し入れた。
フライパンも私の顔ぐらい大きいのだけれど、ボールの中の卵液を三分の一程度入れるといっぱいになってしまった。
巨大オムレツが三つは作れそうだ。
フライパンに熱せられた卵は、じゅわじゅわと音を立てながら、ドロドロの液体だったものがふわふわになっていく。
固まってきたところを液状の卵液と混ぜるようにして、全体的に火が通るようにする。
フライパン全面に広がっている卵液を混ぜながら、半熟程度になったところで、フライパンを傾けながら菜箸で反対側からくるりと畳む。
綺麗な黄金色に焼けた裏面が顔を出し、私は嬉しくなって口の端をにやにやさせた。
「もうできたのか? それがあのドロドロした不味い卵なのか」
「農場では、新鮮な卵を白米にかけて食すこともあるようですよ、親父殿」
「正気か」
「何かが足りなかったのではないでしょうか。市場に流通する卵は生食には適しませんが、農場で食べるとれたての生卵は食通の人々には人気があるようです。至高のTKGなどと呼ばれていて、雑誌で特集が組まれるほどで」
「てぃーけーじーとは」
「卵かけご飯のことですね」
ユリウス様がすごい速さで大きめの木を削りながら、ヴィルヘルムと話をしている。
私は楕円形に形を整えた卵が焼けるのを待つ間、火力を調節するためにカマドに薪を足すなどした。
自然の音しか聞こえない、静かな空間で一人を楽しむのがソロキャンプ。
けれど、ヴィルヘルムとユリウス様が賑やかに話している今も、そんなに悪くない気がする。
真昼の日差しが降り注ぐ海が、どこまでも青く輝いている。
なんだかとても、平和だ。
「四つ首ダチョウの卵は生食には適していないということだろう」
ヴィルヘルムはよほど生卵に嫌な思い出でもあるのか、嫌そうに言った。
「他の獣や魔物たちが奪い合って食っているのを見てな、それならよほど旨いのだろうと考えて、丸呑みにした。殻はじゃりじゃりして固く、中身はドロドロして薄気味悪い。最低だったぞ」
「それは殻ごと食べるからです、親父殿。殻は割ります。中身も適量というものがありますからね。適量を白米にかけて、その上から醤油などを垂らすと旨いそうですよ。俺はそこまで食道楽でもないので、食ったことはありませんが」
「しょうゆとはなんだ、ユリウス」
「調味料のひとつです。黒くてしょっぱい」
「黒くてしょっぱい? 旨いのか、それは」
「大抵の食材とあいますね。俺の部下などは、魔物討伐のための野営中に、白米に醤油をかけたものばかりを食っている奴などもいましたね」
「リコリス!」
私の背後から、ヴィルヘルムの期待に満ちた声が聞こえる。
「醤油は作れませんよ、ヴィルヘルム。不自由を楽しむのがキャンプなのですから、贅沢は言わないでくださいな。まずは食材の味を楽しんでください。キノコオムレツができましたよ」
調味料があった方が美味しいとは思うのだけれど、何せ何もないのだから諦めてほしい。
ユリウス様は出来立ての木製のお皿を、私の前へと差し出してくれた。
私の顔ぐらい大きなオムレツが乗るほどに大きなお皿に、私は両手でフライパンを持って、オムレツを乗せた。
綺麗にお皿の上に乗ったオムレツは、ほかほかの湯気を立てながら、ぷるんと震えた。
3
お気に入りに追加
916
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる