34 / 82
キノコオムレツと恋のときめき 1
しおりを挟むユリウス様は、ほくほくした表情で四つ首ダチョウの長く太い片足を片手で持ち上げると、私を振り向いた。
お友達の皆さんがおっしゃっていた通り、今のユリウス様なら討伐した魔物の首を掲げて「わはは!」と笑いそう。
「リコリス、無事四つ首ダチョウを討ち取ったぞ! さぁ、肉と卵を持ち帰ろう!」
「ユリウス様、お強いのですね、流石です」
一瞬なんか違うなぁと思ったものの、せっかくユリウス様が頑張ってくださったので、私は拍手で受け入れることにした。
パチパチと拍手をする私の横で、ヴィルヘルムも「人間にしては強いのだな」と感心している。
ユリウス様はとっても嬉しそうに破顔した。
「俺の前に、四つ首ダチョウなど無力! リコリスと親父殿と子供たちのためなら、どんな巨大な魔物でも動物でも海洋生物でも狩りとってきてやろう、わははは!」
ユリウス様が野生にお還りになっていらっしゃる。
本当に「わはは」って笑うのね。学園でのユリウス様は、爽やかな微笑を浮かべる程度だったのに、我慢していたのかしら。
もし私が怖がることを心配して、私の存在がユリウス様の野生を我慢させていたとしたら忍びないわね。
それにしてもユリウス様には先ほどから子供たちの幻覚が見えているようだ。
本当に王都に帰らないつもりなのかしら。王太子殿下なのに。
ユリウス様とはもっと大切なことを話さなければいけない気がするのだけれど、ヴィルヘルムが私を鼻先で突いて「肉と卵だぞ、リコリス」と言うので、まぁ良いかと、私は目の前の食材に集中することにした。
命を頂くのだから、食材に対しては常に真摯でなければいけないわよね。
四つ首ダチョウにさえ名乗りを上げたユリウス様を、見習わなければ。
私も魔法少女の端くれ。「この白竜の乙女リコリスが、今からあなたと戦います! 食材にするために!」ぐらい言うべきよね。今度から気をつけましょう。
「ユリウス様、ありがとうございました。大変見事な戦いぶりでした」
「そういえば、リコリスに俺の戦う姿を見せたのは初めてだったな。怖くはなかっただろうか」
「怖くはありません。ユリウス様のお力は特別だとは知っていましたが、見せていただいたのは、確かにはじめてですね」
類稀なる自己回復力の持ち主であるユリウス様は、生まれながらにして特殊な魔力を持っている。
体を好きなように形態変化させることができるらしいと、話には聞いたことがあった。
どんなに優れた魔導士でも、自らの体の形を変えることなどできない。
ユリウス様は人並みはずれて魔力量が多いらしい。そのため、優れた力を持っているそうだ。
とはいえあまり気にしたことはない。
ユリウス様もそれを自慢に思っているわけでもないし、滅多にその力は使わないようだ。
私が見たことがあるのは、アリアネちゃんの聖女チョップのダメージから体を回復させるところぐらいだ。
「側近たちが、女性に見せるべき姿ではないとうるさくてな。隠していたわけではないのだが」
ユリウス様は掲げていた四つ首ダチョウの体を地面に降ろした。
「ところでリコリス、四つ首ダチョウはどこを食べるんだ?」
「胴体は羽と骨ばかりなので、足だと、ルーベンス先生が言っていました」
「では手羽先は持ち帰ろう。それから卵も持っていこう」
私は両手に金色の、私の頭ぐらいの大きさの卵を二個かかえた。
ユリウス様は腕から生えている剣で四つ首ダチョウのお肉を切り取ると、肩に担いだ。
腕からはえている剣は、にゅるんと元に戻った。剣は戻ったけれど、服は破れたままだった。
ヴィルヘルムが卵をもっと欲しがったけれど、そんなには食べることができないし、調理にも時間がかかるので、駄目だと却下させてもらった。
新鮮ではない卵はお腹を壊すのだ。
保存が効かないものは、野生の動物たちに譲るべきだろう。
4
お気に入りに追加
915
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m

お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる