追放された公爵令嬢は、流刑地で竜系とソロキャンする。

束原ミヤコ

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キノコオムレツと恋のときめき 1

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 ユリウス様は、ほくほくした表情で四つ首ダチョウの長く太い片足を片手で持ち上げると、私を振り向いた。

 お友達の皆さんがおっしゃっていた通り、今のユリウス様なら討伐した魔物の首を掲げて「わはは!」と笑いそう。

「リコリス、無事四つ首ダチョウを討ち取ったぞ! さぁ、肉と卵を持ち帰ろう!」

「ユリウス様、お強いのですね、流石です」

 一瞬なんか違うなぁと思ったものの、せっかくユリウス様が頑張ってくださったので、私は拍手で受け入れることにした。

 パチパチと拍手をする私の横で、ヴィルヘルムも「人間にしては強いのだな」と感心している。
 ユリウス様はとっても嬉しそうに破顔した。

「俺の前に、四つ首ダチョウなど無力! リコリスと親父殿と子供たちのためなら、どんな巨大な魔物でも動物でも海洋生物でも狩りとってきてやろう、わははは!」

 ユリウス様が野生にお還りになっていらっしゃる。

 本当に「わはは」って笑うのね。学園でのユリウス様は、爽やかな微笑を浮かべる程度だったのに、我慢していたのかしら。

 もし私が怖がることを心配して、私の存在がユリウス様の野生を我慢させていたとしたら忍びないわね。
 それにしてもユリウス様には先ほどから子供たちの幻覚が見えているようだ。

 本当に王都に帰らないつもりなのかしら。王太子殿下なのに。
 ユリウス様とはもっと大切なことを話さなければいけない気がするのだけれど、ヴィルヘルムが私を鼻先で突いて「肉と卵だぞ、リコリス」と言うので、まぁ良いかと、私は目の前の食材に集中することにした。

 命を頂くのだから、食材に対しては常に真摯でなければいけないわよね。

 四つ首ダチョウにさえ名乗りを上げたユリウス様を、見習わなければ。

 私も魔法少女の端くれ。「この白竜の乙女リコリスが、今からあなたと戦います! 食材にするために!」ぐらい言うべきよね。今度から気をつけましょう。

「ユリウス様、ありがとうございました。大変見事な戦いぶりでした」

「そういえば、リコリスに俺の戦う姿を見せたのは初めてだったな。怖くはなかっただろうか」

「怖くはありません。ユリウス様のお力は特別だとは知っていましたが、見せていただいたのは、確かにはじめてですね」

 類稀なる自己回復力の持ち主であるユリウス様は、生まれながらにして特殊な魔力を持っている。

 体を好きなように形態変化させることができるらしいと、話には聞いたことがあった。

 どんなに優れた魔導士でも、自らの体の形を変えることなどできない。
 ユリウス様は人並みはずれて魔力量が多いらしい。そのため、優れた力を持っているそうだ。

 とはいえあまり気にしたことはない。
 ユリウス様もそれを自慢に思っているわけでもないし、滅多にその力は使わないようだ。

 私が見たことがあるのは、アリアネちゃんの聖女チョップのダメージから体を回復させるところぐらいだ。

「側近たちが、女性に見せるべき姿ではないとうるさくてな。隠していたわけではないのだが」

 ユリウス様は掲げていた四つ首ダチョウの体を地面に降ろした。

「ところでリコリス、四つ首ダチョウはどこを食べるんだ?」

「胴体は羽と骨ばかりなので、足だと、ルーベンス先生が言っていました」

「では手羽先は持ち帰ろう。それから卵も持っていこう」

 私は両手に金色の、私の頭ぐらいの大きさの卵を二個かかえた。
 ユリウス様は腕から生えている剣で四つ首ダチョウのお肉を切り取ると、肩に担いだ。

 腕からはえている剣は、にゅるんと元に戻った。剣は戻ったけれど、服は破れたままだった。
 ヴィルヘルムが卵をもっと欲しがったけれど、そんなには食べることができないし、調理にも時間がかかるので、駄目だと却下させてもらった。

 新鮮ではない卵はお腹を壊すのだ。
 保存が効かないものは、野生の動物たちに譲るべきだろう。

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