追放された公爵令嬢は、流刑地で竜系とソロキャンする。

束原ミヤコ

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二手たまご

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 私の背丈よりも倍ぐらい大きい四つ首ダチョウが、私の顔ぐらいの大きさの金色の卵を温めている。
 名前のとおり四つの長い首に、四つの顔を持った、足の長い黒い羽根はあるけれど飛べない鳥である。

 四つ首ダチョウの卵は希少だ。

 四つ首ダチョウ自体、あまり見かけない動物だからである。
 それこそ、人の手が及んでいない荒地でもないかぎり、遭遇することはない。

『四つ首ダチョウの卵は見た目通り巨大で、栄養価も高くそれはもう旨い。他の動物や魔物にとってもごちそうではあるが、四つ首ダチョウに手を出すのは危険なので、卵を奪うのは命懸けだ』

 私の脳裏に、四つ首ダチョウにコブラツイストをかける裸エプロンのルーベンス先生の、ワンポイント食料捕獲講座が思い浮かぶ。

「朝ご飯は卵にしましょう」

「ユリウスのせいでもう昼だが」

「申し訳ありません、親父殿。詫びとして俺が四つ首ダチョウの肉と卵を手に入れてきます」

「俺はいつからお前の父になったんだ」

 私とヴィルヘルムの関係について理解したユリウス様は、ヴィルヘルムに対して途端に礼儀正しくなった。
 神竜だということは分かっていたそうだが、私に危害を加えたのではと疑っていたらしい。

 危害を加えたとは真逆で、ヴィルヘルムが私を助けてくれたことを知ると、恭しくお礼を言って、敬意を払うようになった。

 ユリウス様とはたまに口が悪いけれど、基本的には年功序列を重んじる真っ直ぐな方だ。

 私たちは、こそこそ木陰から四つ首ダチョウを見ている。
 拠点に帰る途中で偶然四つ首ダチョウの巣を発見したのである。

「リコリスを救ってくださり、俺とリコリスを番だと認めてくださったヴィルヘルム様は、俺の親父殿と呼ぶべき方ですので。卵はいくつ食べますか?」

「あれは、生で食うとドロドロしていて粘ついていて、不味い」

 先程荒地に到着したばかりなのに、ユリウス様は昨日から一緒にいたぐらいサバイバルに馴染んでいる。
 ヴィルヘルムは四つ首ダチョウの卵に嫌な思い出でもあるのか、半眼で疑り深そうに言った。

「火を通すと美味しいのですよ、ヴィルヘルム。鬼マタンゴがまだ残っていますから、キノコオムレツを作りましょう。白米があればダチョウ肉と親子丼ができなくもないですが」

 調理をすれば美味しいと思うの。
 確かルーベンス先生も、生はよくないって言っていたし。

「旨いのならあるだけ食う」

 ころっと意見を変えるヴィルヘルムに、ユリウス様は不思議そうに首を傾げた。

「親父殿は竜なのですから、ブレスが吐けるのでは? なぜ火を通さずに生食をするのです?」

「俺が吐けるのは光のブレスだ。光のブレスは全てを浄化する灼熱の光線。温度調整ができると思うな。そのようなものをあびせたら、皆消し炭になる」

「なかなか難儀なのですね」

「竜に人のような繊細さはないと思え」

「理解しました。それでは、俺がリコリスと親父殿、そしていずれ産まれる十人の子供のために、卵とダチョウを捕獲してきましょう」

 それは私が、と思ったけれど、私が声をかける前にユリウス様は意気揚々と、木陰から四つ首ダチョウの巣へと向かっていった。
 


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