32 / 82
二手たまご
しおりを挟む私の背丈よりも倍ぐらい大きい四つ首ダチョウが、私の顔ぐらいの大きさの金色の卵を温めている。
名前のとおり四つの長い首に、四つの顔を持った、足の長い黒い羽根はあるけれど飛べない鳥である。
四つ首ダチョウの卵は希少だ。
四つ首ダチョウ自体、あまり見かけない動物だからである。
それこそ、人の手が及んでいない荒地でもないかぎり、遭遇することはない。
『四つ首ダチョウの卵は見た目通り巨大で、栄養価も高くそれはもう旨い。他の動物や魔物にとってもごちそうではあるが、四つ首ダチョウに手を出すのは危険なので、卵を奪うのは命懸けだ』
私の脳裏に、四つ首ダチョウにコブラツイストをかける裸エプロンのルーベンス先生の、ワンポイント食料捕獲講座が思い浮かぶ。
「朝ご飯は卵にしましょう」
「ユリウスのせいでもう昼だが」
「申し訳ありません、親父殿。詫びとして俺が四つ首ダチョウの肉と卵を手に入れてきます」
「俺はいつからお前の父になったんだ」
私とヴィルヘルムの関係について理解したユリウス様は、ヴィルヘルムに対して途端に礼儀正しくなった。
神竜だということは分かっていたそうだが、私に危害を加えたのではと疑っていたらしい。
危害を加えたとは真逆で、ヴィルヘルムが私を助けてくれたことを知ると、恭しくお礼を言って、敬意を払うようになった。
ユリウス様とはたまに口が悪いけれど、基本的には年功序列を重んじる真っ直ぐな方だ。
私たちは、こそこそ木陰から四つ首ダチョウを見ている。
拠点に帰る途中で偶然四つ首ダチョウの巣を発見したのである。
「リコリスを救ってくださり、俺とリコリスを番だと認めてくださったヴィルヘルム様は、俺の親父殿と呼ぶべき方ですので。卵はいくつ食べますか?」
「あれは、生で食うとドロドロしていて粘ついていて、不味い」
先程荒地に到着したばかりなのに、ユリウス様は昨日から一緒にいたぐらいサバイバルに馴染んでいる。
ヴィルヘルムは四つ首ダチョウの卵に嫌な思い出でもあるのか、半眼で疑り深そうに言った。
「火を通すと美味しいのですよ、ヴィルヘルム。鬼マタンゴがまだ残っていますから、キノコオムレツを作りましょう。白米があればダチョウ肉と親子丼ができなくもないですが」
調理をすれば美味しいと思うの。
確かルーベンス先生も、生はよくないって言っていたし。
「旨いのならあるだけ食う」
ころっと意見を変えるヴィルヘルムに、ユリウス様は不思議そうに首を傾げた。
「親父殿は竜なのですから、ブレスが吐けるのでは? なぜ火を通さずに生食をするのです?」
「俺が吐けるのは光のブレスだ。光のブレスは全てを浄化する灼熱の光線。温度調整ができると思うな。そのようなものをあびせたら、皆消し炭になる」
「なかなか難儀なのですね」
「竜に人のような繊細さはないと思え」
「理解しました。それでは、俺がリコリスと親父殿、そしていずれ産まれる十人の子供のために、卵とダチョウを捕獲してきましょう」
それは私が、と思ったけれど、私が声をかける前にユリウス様は意気揚々と、木陰から四つ首ダチョウの巣へと向かっていった。
3
お気に入りに追加
916
あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる