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空から王子様が降ってくる朝 1
しおりを挟む透き通った水に体を浮かべて空を見上げていると、空と湖の境目が分からなくなってくる。
真っ直ぐな黒い髪が湖面に広がって、私の菫色の瞳には空が映しこまれて、今は水色になっているかもしれない。
青空に白い鳥が飛んでいる。
あれはきっと渡り合鴨。
渡り合鴨のロースト。焼き鳥。からあげ。鴨うどん。
今晩のご飯はお肉にしたい。キャンプと言えばお肉。焚火で焼くお肉が定番中の定番だ。
「そういえばヴィルヘルム、昨日の夜はありがとうございました。ヴィルヘルムの体がふかふかだったためか、良く眠れました」
湖にぷかぷか浮かびながら、私はヴィルヘルムに話しかける。
ヴィルヘルムは近くの岩場に寝ころびながら、私の方をちらりと見る。
「あれは幼体と成体の中間の姿だ。砂浜で丸くなっているお前があまりにも哀れだったのでな」
「ヴィルヘルムに哀れだと思われないように、今日はきちんとテントを作りたいですね。自然そのままの素材を使って行うサバイバルキャンプも良いものですが、女子力高めに飾りをつけて非日常のオシャレ空間を楽しむ女子力ソロキャンもまた良いものです」
「じょしりょくソロキャンか、強そうだな……」
「ええ。女子力とはパワーです」
「そうか、力か」
せめてヴィルヘルムに哀れまれない程度のソロキャンを目指すべきよね。
今日はテントを作って、ついでにタープなどを張りたい。
最終的にはログハウスかしら。
ログハウスを拠点として、各地でソロキャンを行いながら、リコリス帝国を興すために開拓をしていかなければいけないわね。
「今日も一日はりきっていきましょう。ソロキャンアイドルリコリスの朝は早いのです」
私はもう一度空を眺める。
白い鳥の姿は見えない。
その代わりに、黒い鳥が空を飛んでいる。
黒い鳥の姿が徐々に大きくなってくる。どんどんこちらに近づいてきているようだ。
「ヴィルヘルム、大変です! 空から大きな黒い鳥みたいな人間が……!」
「何を言っているんだ、リコリス」
鳥かと思ったけれど、翼のある中心に見えるのは、私と同じ形をした人間である。
その人影は軍用コートをはためかせながら、近くの岩場にあっという間に着陸をした。
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