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 夢は全裸で仁王立ち 2

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 私とヴィルヘルムは、昨日と同じく再び森の中を湖を目指してざかざかと進んだ。

 当てがなく彷徨っているわけではなくて、神竜の乙女となった私の身体能力では、小高い丘の上に飛び上がって周囲を見渡すことなどお手の物なので、行く先の見当はついている。

 ヴィルヘルムは朝食が早く食べたいと文句を言うのかなと思ったのだけれど、素直に私の横をふわふわとついてくる。

 もしかしたらまだ眠いのかもしれない。
 ルーベンス先生の作った食事の香りで目覚めるまで微睡んでいたというし、年齢的にはおじいちゃんだし、きっと眠いのだろう。

「ヴィルヘルム、私は今から水浴びをしますので、待っていてくださいね」

 森の奥に進んでいくと、開けた場所に到着した。

 エメラルドグリーンの水面は、湖の底まで見通せるぐらいに透き通っている。
 そこここから小さな気泡が湧き上がっている。

 湧き水なのだろう。
 湖から清廉な川に水が流れ込んでいて、小魚の姿も見えるので、毒などはない無害な水なのだということが分かる。
 ヴィルヘルムは岩の上にちょこんと座った。

「さっさと済ませろ。俺は森を見ている」

「ヴィルヘルムは竜なのですから、気にしなくて良いのでは」

「お前はもう少し恥じらいを持て」

「ここは新生リコリス帝国予定地なので、全て私の土地です。私が私の土地で全裸になるのは自由。ルーベンス先生も、大自然との対話のためには全裸が一番だと言っています」

「だからあの男は砂浜で服を脱ぎ捨てて仁王立ちしていたのか。一体何をしているのかと思っていたが」

「大自然との対話です。ヴィルヘルムはルーベンス先生の裸体を生で見たのですか!? ずるい」

「ルーベンスの話はもう良い。早くしろ、リコリス。そして朝食を作れ」

「はいはい、わかりましたよ。ちょっと待っていてくださいね。この服、どうやって脱ぐんですか?」

 私はメイド服風神竜の乙女の標準装備の布地を引っ張った。

「戦衣解除と言えば一瞬で脱ぐことができる」

「脱いだら必ず全裸になるのですか」

「いや、元の服に戻る」

 元々私は何を着ていたかしら。
 首を傾げながら、とりあえず「戦衣解除」と口にしてみる。

 きらきら輝く粒子とともに、神竜の衣装が消え失せて、ドレスを脱いでパニエを切り取った下着姿へと私は戻った。
 パニエを切り取ったのがはるか昔のことのように感じられるわね。

 私はいそいそと体にへばりつくようにして残っていた衣服を脱いだ。
 屋外で、初、全裸である。

 まさに、大自然と、私、といった感じ。
 感慨深いわね。
 私は腰に手あてて、大自然の中で仁王立ちをした。

「リコリス、早く水に入れ」

 呆れたようにヴィルヘルムが私の背中に話しかけてくる。
 森の方を見ていると言ったのに。

 別に良いのだけれど。
 それにしても、全裸で大自然の中で仁王立ちするとは、なんと開放的なのかしら。

 日常の些細な事がどうでも良くなってくる。
 たとえば流刑にされたこととか。

 学園に残してきたアリアネちゃんが荒れに荒れて、王国に氷河期を到来させていないかしらという心配とか。
 私がいなくなってしまったことに気づいたお父様が、泣きじゃくりながら自暴自棄になって、折角貯めてきた公爵家の資金を全てカジノで使い果たしていないかしらとか。

 そういったことだ。
 ユリウス様のことは良く分からない。

 私の処遇は王家の方々が決めたのだし、ユリウス様は王太子殿下なので――今回のことに関わっていなかったとは、考え難いのだけれど。

 ひとしきり仁王立ちを満喫した後、私は湖の中に足先をつけた。
 ひんやりとしていて気持ち良い。

 昨日の疲れと、体に纏わりついた砂粒が落ちていくようだ。

 体を全て湖に沈めて、私は、ほう、と息を吐いた。

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