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聖女と乙女 2
しおりを挟む暗い夜が訪れる。
焚火の炎だけが、私たちの姿を照らしている。
丸い月の白い光が、黒い海に一本の道のように明るい線を引いている。
「ラキュラスの聖女と、神龍の乙女というのは、どういった違いがあるのですか?」
なんだかしんみりしてしまった空気を払拭するために、私は話題を変えることにした。
この国にはラキュラスの聖女であるアリアネちゃんがいるのに、さらに神竜の乙女というのは、役割が重複してしまうのではないかしら。
「ラキュラスの聖女は、ラキュラスが選んだこの国に平和と豊壌を齎す存在だ。聖女は戦う力を持たない」
「アリアネちゃんは強いですよ。特に聖女チョップと、聖女腕ひしぎ十字固め、それから聖女三角絞めが強いです」
「お前の妹は本当に聖女なのか?」
「聖女です」
「そうか。……ともかく、聖女は戦う力を持たない」
ヴィルヘルムは、私の言葉を聞かなかったことにしたらしい。
アリアネちゃんの繰り出す聖女チョップは良くユリウス様の手の甲を焼け焦げさせていたし、私に近づいた罪などといった冤罪で、ユリウス様を三角絞めにしたり、街の悪者を腕ひしぎ十字固めで成敗していたのに、おかしいわね。
アリアネちゃんは強かった。
私もアリアネちゃんのように強いサバイバルキャンプ女子になりたいと言ったら「お姉様は駄目ですわ! お姉様はか弱い一般人なのですから!」と何度も強く言われてしまった。
「神竜の乙女とは、聖女を守護する存在だ。この国に邪な者が現れた時、我ら神竜はそれを打ち滅ぼすために、それぞれの乙女を選定する。乙女は四人。四人揃えば、どんな困難にも打ち勝つことができる」
「魔法少女じゃないですか」
魔法少女とは、少女たちが手を取り合って戦うと相場が決まっている。
特に強制的に戦闘を終了させる超必殺技は、魔法少女たちが全員揃わないと繰り出すことができない。
神竜の乙女とは、やっぱり魔法少女だった。
「ん? ええと、つまり、ヴィルヘルムが私を選んだ今、この国に邪な者が現れたということですか?」
「さぁな。俺は料理が食いたかっただけだ。創生より今まで、そういった存在とは縁がない。この荒れ地で微睡んでいたら、禿頭の男が作っていた料理の芳しい香りで起こされた。それから、俺は料理のことが忘れられなかった。だから、たまたまここにきた人間のお前の料理を食うために、力を授けただけだ」
「そうなんですね。国の危機とかじゃないんですね」
「多分」
「神竜が多分とか言って良いんですか」
「まぁ、大丈夫だろう」
「……まぁ、アリアネちゃんは強いですから、神竜の乙女などというものがいなくても大丈夫だとは思いますけれど」
私は、私とはあまり似ていない妹のアリアネちゃんの姿を思い浮かべながら、丸焼きキノコの串を、もう片面を焼くためにひっくり返した。
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