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婚約者と妹の思い出 1
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私は熱心に、愛読書である『春夏秋冬王国キャンプ生活』に目を通していた。
ルーベンス先生の著作は数多い。
私は基本的にすべて購入するようにしているけれど、特に好きなのは『もしもの時のソロキャンプの心得』である。
ページがすり切れるほど読んだあの本には、人類の英知がすべて詰まっていると言っても過言ではない。
ルーベンス先生とは神。
ゴットオブルーベンス。
できることなら我がオリアニス公爵家の全資産を注ぎ込んで、ルーベンス先生のパトロンになりたい。
そして私は毎週金曜日午後九時から三十分放送されている『キャンプ飯はじめました。~美味しい魔物料理のすすめ~』で、ルーベンス先生の助手をなさってる、『メスティン・ユマ』お姉さんのかわりに、ルーベンス先生の助手になりたい。
スキレット・リコリス。とか、どうかしら。
ルーベンス先生の隣でニコニコしながら「みなさんこんばんは、キャンプ飯はじめました、の時間がやってきました~!」と言いたい。
ルーベンス先生の禿頭と大胸筋と二の腕を、あんな至近距離で拝見することができるなんて、ユマお姉さんに私はなりたい。
「窓辺で本を読む君は、まるで儚い可憐な花のようだ。俺のリコリスは今日も美しい。君の前では女神も裸足で逃げ出してしまうだろう」
あんなに素晴らしい大胸筋を至近距離で拝見できる上に、ルーベンス先生の手料理を食べることができるとか、ユマお姉さん羨ましすぎる。
キャンプ大好きアイドルとしてデビューしてから、王国のキャンプ愛好家の男性たちの癒しとなっているメスティン・ユマお姉さんだけれど、私だってきっと王国のおじさまたちの癒し系アイドルになれるはず。
私も今からオリアニス公爵家の権力を利用してアイドルとしてデビューしようかしら。
「悩ましそうな溜息も、夜露に濡れた花弁のように魅惑的だ。どうか俺を見てくれ、リコリス。俺の愛しの花」
「花ではありません、私はスキレット・リコリス。キャンプを愛しキャンプに愛されしソロキャンアイドル、リコリスです」
「そうだな、リコリス。君は俺のアイドルだ。俺だけの。俺が王になったら、城の敷地内にキャンプ地を作ろう。いつでもキャンプがし放題だ」
「遠出ができない方々には、お家キャンプも流行っているのは確かですけれど。それから、私はユリウス様だけのアイドルではありません。キャンプ愛好家の男性たちから圧倒的な支持を集めるのが目標です」
先ほどから何やら私に話しかけてくるユリウス・ヴァイセンベルク様に私は視線を向けた。
静かな空間でキャンプに想いを馳せながら読書を楽しみたかった私は、学園の昼休憩の時間に図書室に来ていた。
図書室では静かにしなければいけない。
それなのに、私が図書室に訪れたのとほぼ同時に「奇遇だな、リコリス」などと言いながら現れたユリウス様が、私のお気に入りの窓辺にあるテーブルセットの椅子の正面に陣取って、何やら話しかけ続けてくるので、他の生徒たちにはうるさいと思われたのだろう。
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