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基本の木 1
しおりを挟む結論から言うと、ヴィルヘルムから貰った神竜の剣とやらの切れ味は抜群だった。
私は闘牛士もかくやというぐらいに赤いドレスのスカートを風呂敷がわりにして、落ちている小枝やら、神竜の剣ですっぱりと切った枝やらを抱えて、ヴィルヘルムの元まで戻る。
戻ると言っても、ヴィルヘルムはかなり大きいので、ヴィルヘルムの尻尾の先から頭側に移動した、程度の距離なのだけれど。
「ドレスを脱ぎ捨てなくて良かった、私の理性がもう少し溶けるのが早ければ、今頃全裸になっているところでした」
ふいーと息を吐きながら、私は額に滲んだ汗を腕で払った。
この感じ、ソロキャンしている感じがすごいする。
青い空、青い海、白い砂浜、汗と砂塗で汚れた私。
良い。凄く良い。ひしひしとソロキャンを満喫している気がしてくる。
「無駄にびらびらと邪魔くさいドレスで放り出された甲斐があったというものです。ドレスの使い道、思えば結構ありますよね。これほど面積の大きな布なのですから、寝袋の役目を果たしてくれるやもしれません」
ドレスのスカートに包むようにして運んできた薪を砂浜の上にぽいぽい並べて重ねながら、私は独り言を言った。
当然返事はない。
だってこれはソロキャンだから。
ヴィルヘルムは食事以外に興味がないのか、寝そべったまま目を閉じて動かない。
巨大すぎる置物のようになっている。
まるで海辺に打ち上げられた鯨である。
竜だけど。
「しかしこのサバイバルナイフのようなもの、は切れ味が良いですねぇ。これなら、丸太も切れるのではないでしょうか」
「この世で一番硬い岩甲虫も簡単に切ることができる。なんせ、対魔用の神剣だからな」
剣の話になると、ヴィルヘルムは律儀に答えてくれた。
「へぇ」
なんか色々言っている気がするけれど、あんまり興味のなかった私は生返事をした。
丸太を切ることが可能だと確定した時点で、私の興味は丸太にしかないのだ。
私は森へと舞い戻り、手ごろな太さの木の前に立った。
丸太を切りたいと心に思い浮かべると、木の幹に赤い線が浮かんだような気がした。
気のせいかと思ってパチリと瞬きをしたけれど、相変わらず赤い点線のようなものが私の見ている景色に、絵筆で線を引いたように浮かび上がっている。
まるで剣が己の扱い方を教えてくれているようだった。
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