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ヴィルヘルムとの契約 2
しおりを挟む今は遮蔽物のない砂浜にいるので、その姿をすっかり見ることができる。
小山ほど――というのは言い過ぎだけれど、私の住んでいた屋敷と同じぐらいの大きさである。
陽光に照らされて、白い体が艶々と光っている。
「真っ白で、美人さんです。竜の中でもかなりのイケメンなのではありませんか?」
「イケメン? 姿形が良いという意味か」
「ええ、ええ、そうです。イケメン。男前。ハンサム。そんな感じです」
「お前も人間の中では美しい方ではないのか?」
「まぁ! ありがとうございます。とってもお上手ですね!」
褒め言葉は快く受け入れるのが、淑女の嗜みである。
私にはもう関係の無いマナーだけれど、折角褒めてくれるのだからにっこり受け入れるべきだろう。
とはいえこの土地には人間は私しかいないので、私の容姿が綺麗だろうが普通だろうが、美醜は何の役にも立たないのよね。
「さて、てきぱきと拠点を作ってしまいましょう。必要なのは、寝る場所です。寝る場所と、薪。それさえあれば一応はなんとかなります」
「俺の背の上で寝ると良い。安全だ」
「お気持ちは嬉しいのですが、ソロキャンの醍醐味がですね……」
私はきょろきょろとあたりを見渡した。
手頃な木や、蔦や、柔らかそうな葉などはあるけれど、なんせ私は素手だ。
魔法を使っても良いけれど、どうしようかしらと思案する。
「サバイバルナイフがあれば良かったのですけれどね……」
ルーベンス先生はどんなときでもサバイバルナイフ一本でなんとかしてきた。
ナイフ、こっそり太股に忍ばせておけば良かったわね。
「剣が欲しいのか、リコリス」
「剣というか、サバイバルナイフですけれど」
「剣ならある。俺と契約を交わせば、白竜の剣が手に入る」
「……なんですかその、伝説の勇者の剣みたいなやつは」
「この世界には、四体の神竜がいるだろう。四体の神竜は、それぞれ神器を守っている。俺はその一人で、俺が守っているのは白竜の剣というわけだ」
「それはそれは!」
私は両手を胸の前であわせて、ヴィルヘルムを見上げた。
神竜とか、神器とか、よく分からないけれど、ヴィルヘルムがそう言うからにはそうなんだろう。
ともかく今はサバイバルナイフが欲しい。
サバイバルナイフとは言わない。刃物なら何でも良い。
「ではさっそく、ヴィルヘルム、私と契約を交わしましょう。そしてその白竜の剣というものを、私に貸してくださいな。サバイバルナイフもなければ包丁もないとあっては、お魚もさばけないのです」
「……料理のためだ、仕方ないだろう」
とっても物わかりの良いヴィルヘルムは、私の体に額を押しつけるようにした。
ヴィルヘルムは大きいので額を押しつけられると弾き飛ばされそうなぐらいの衝撃を感じるけれど、なんとか転ばないように足に力を入れる。
「汝、悪を滅し世界を守る者として、白竜ヴィルヘルムとの不滅の契約を交わすか?」
「はい!」
私は元気よく答えた。
悪とはなんだろう。世界を守るとなんだろう。
不滅の契約とか言っていたかしら。
まぁ、なんとかなるわよね。今はなんせ刃物が欲しいのよ、私は。
私が元気よく返事をすると、私の胸のあたりが光り輝き始める。
剣の柄のようなものが、私の胸からはえている。
特に痛みはない。
私は柄を握りしめて、私の体の中からずらりと剣を引き抜いた。
それは私の体に合わせてくれたような、持ちやすい小ぶりの美しい剣だった。
白い刀身に、銀色の柄。
両刃の剣である。
「ヴィルヘルム、これ、折れたりしません?」
「折れない。何でも切ることができる、神竜の剣だからな」
「じゃあ早速薪をあつめましょう」
私は剣を持って、森へ向かった。
ヴィルヘルムは何も言わずに私の姿を、森の入り口の側に巨体を横たえながら眺めていた。
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