64 / 67
救出作戦 2
しおりを挟む
魔封じの呪符のせいで力を弱められているのか、ティグルちゃんがいくらぶつかっても、檻はびくともしないようだった。
水色大虎は、体に青い炎を纏い、炎を吐くことができる。
ティグルちゃんは私の家ではそれをしなかったけれど――全てを焼き尽くす炎であればきっと、檻を焼き切ることもできるはずなのに。
シスちゃんは空を飛ぶ以外のことはできない。天馬は戦う力がない。その代わりとても聡明で、いい子だ。
シスちゃんだけじゃない。みんな、いい子だ。
それなのに――お父様が購入してきたときも、このように、いや、もっとひどい状態で売られていたのだろう。
私はお父様を責められない。
もし私が客人としてここに参加していたら、どんなにお金がなくても、借金をしてでも皆を買おうとしたと思う。
そうでなければ、先に売られていた魔生物の体の一部のように、皆解体されてしまうだろうから。
「七百万ギルス! 他には? あぁ、ミスター! 一千万ギルス! 素晴らしい!」
男の言葉が会場を盛り上げる。
レイシールド様が姿勢を低くして、私の耳元で囁いた。
「――もうすぐ、騎士団が到着する。ティディス。入り口から逃げようとするものだけを、シュゼットの力で眠らせて欲しい。できるか?」
「わかりました」
「リュコス、ティディスを任せた」
『下僕を守るのは主の務めじゃ』
リュコスちゃんが得意気につんと、鼻をあげた。
私はレイシールド様の手を、ぎゅっと握りしめる。
「気を付けてください、レイシールド様。怪我は、嫌です」
「あぁ。……ありがとう」
レイシールド様は私の手を引くと、繋いだ手の甲に唇を落とす。
皮膚にあたる柔らかい感触に、私は目を見開いた。
こんな時なのに、かっと体温が上昇して、頬が染まった。
レイシールド様が剣を抜いたのを合図にするように、リュコスちゃんの透明化が解かれる。
私の姿も――今は見えている。
私はティグルちゃんとシスちゃんに聞こえるように、声を張り上げた。
「ティグルちゃん、シスちゃん、助けに来たわ!」
「……グル……!」
『てぃでぃすさま……!』
ティグルちゃんの鋭い瞳が私をうつした。
シスちゃんの声が頭に響く。シスちゃんは、リュコスちゃん程ではないけれどお話しすることができる。
「レイシールド・ガルディアスの名の元に、我が国の法を犯す者どもを捕縛する。俺に逆らう気のない者は動くな。動く者は切り捨てる!」
ステージに向かい抜き身の剣を向けて足を進めながら、レイシールド様が堂々と、高らかに名乗りを上げた。
仮面の客人から悲鳴が沸き上がり、広間は先程とはちがう不安に満ちた喧騒でつつまれる。
ステージの上の男が「どういうことだ! 皇帝がここにいるわけがない、偽物だろう!」と、焦りと驚愕が入り混じった大きな声をあげた。
水色大虎は、体に青い炎を纏い、炎を吐くことができる。
ティグルちゃんは私の家ではそれをしなかったけれど――全てを焼き尽くす炎であればきっと、檻を焼き切ることもできるはずなのに。
シスちゃんは空を飛ぶ以外のことはできない。天馬は戦う力がない。その代わりとても聡明で、いい子だ。
シスちゃんだけじゃない。みんな、いい子だ。
それなのに――お父様が購入してきたときも、このように、いや、もっとひどい状態で売られていたのだろう。
私はお父様を責められない。
もし私が客人としてここに参加していたら、どんなにお金がなくても、借金をしてでも皆を買おうとしたと思う。
そうでなければ、先に売られていた魔生物の体の一部のように、皆解体されてしまうだろうから。
「七百万ギルス! 他には? あぁ、ミスター! 一千万ギルス! 素晴らしい!」
男の言葉が会場を盛り上げる。
レイシールド様が姿勢を低くして、私の耳元で囁いた。
「――もうすぐ、騎士団が到着する。ティディス。入り口から逃げようとするものだけを、シュゼットの力で眠らせて欲しい。できるか?」
「わかりました」
「リュコス、ティディスを任せた」
『下僕を守るのは主の務めじゃ』
リュコスちゃんが得意気につんと、鼻をあげた。
私はレイシールド様の手を、ぎゅっと握りしめる。
「気を付けてください、レイシールド様。怪我は、嫌です」
「あぁ。……ありがとう」
レイシールド様は私の手を引くと、繋いだ手の甲に唇を落とす。
皮膚にあたる柔らかい感触に、私は目を見開いた。
こんな時なのに、かっと体温が上昇して、頬が染まった。
レイシールド様が剣を抜いたのを合図にするように、リュコスちゃんの透明化が解かれる。
私の姿も――今は見えている。
私はティグルちゃんとシスちゃんに聞こえるように、声を張り上げた。
「ティグルちゃん、シスちゃん、助けに来たわ!」
「……グル……!」
『てぃでぃすさま……!』
ティグルちゃんの鋭い瞳が私をうつした。
シスちゃんの声が頭に響く。シスちゃんは、リュコスちゃん程ではないけれどお話しすることができる。
「レイシールド・ガルディアスの名の元に、我が国の法を犯す者どもを捕縛する。俺に逆らう気のない者は動くな。動く者は切り捨てる!」
ステージに向かい抜き身の剣を向けて足を進めながら、レイシールド様が堂々と、高らかに名乗りを上げた。
仮面の客人から悲鳴が沸き上がり、広間は先程とはちがう不安に満ちた喧騒でつつまれる。
ステージの上の男が「どういうことだ! 皇帝がここにいるわけがない、偽物だろう!」と、焦りと驚愕が入り混じった大きな声をあげた。
94
お気に入りに追加
3,010
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる