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 オリーブちゃんの話 2

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 お父様が「何事だ……」と、青白い顔で部屋にやってきた。

「お父様、寝ていなくては駄目ですよ。具合が悪いのですから」

「おお、久々に会うな。伯爵様。娘たちに借金の返済をさせて、自分は寝てるのか? 酷い親だなぁ、お嬢ちゃん」

「あなたたちが甘い言葉で、お父様にお金を貸したから……」

「金がねぇって困ってる相手に、金を貸すのは普通のことだろ?」

 マグノア商会は、街にごく普通の質屋のようにして店を構えている。
 質草がなければ、証文一つでお金を貸してくれるのだという。でも、一度お金を借りてしまうと、一生付きまとわれるのだ。
 そういう、悪い人たちなのである。

「いいから吐けよ、お嬢ちゃん。お前の姉ちゃんは素直だったぞ。出せと言われたらはいはい金を出した。その点は賢かったんだろうなぁ。お嬢ちゃんが子供でも、金を返してもらわなきゃいけねぇ俺たちにとっちゃ別に関係のねぇことだしな」

 男は立ち上がると、私の髪を強く引っ張った。
 
「綺麗な髪だな。切って売ったら、多少の金になる」

「痛い、やめて……!」

「やめてくれ、オリーブに手を出さないでくれ……!」

 ぶちぶちと、髪がちぎれた。
 痛みと情けなさに涙が零れる。髪を引っ張られて、私の足はつま先立ちの状態から少し浮いた。
 頭の皮膚が痛い。お父様が男に歯向かおうとして、片手で簡単に突き飛ばされて床に転がった。

「グルゥ……!」

 ──その時だった。
 天井裏に隠れていろと伝えていたティグルちゃんが、天井を突き破って落ちてきたのは。

「ティグルちゃん、駄目!」

 ティグルちゃんは、男に噛みつこうとする。
 男は驚いて私を離した。私は慌てて、ティグルちゃんに抱きついた。
 危害を加えたら、次に何をされるかわからない。全身が、恐怖に震える。
 お姉様はこの恐ろしさと、一人で戦っていたのだ。男たちに言われた通りにしていたのは、私たちを守るためだったのだろう。

「ガル……!」

「駄目! 隠れていてって、言ったのに……私は大丈夫……!」

 我が家の魔生物たちは、お姉様の言葉にとても忠実だ。
 お姉様がティグルちゃんに私を守るようにと言っていたことを思い出した。
 男から私は解放されたけれど、でも──。

「……魔生物じゃねぇか」

 男は飛びかかられた拍子に床に転がったせいで汚れた服を手ではらいながら、立ち上がった。
 それから天井を見上げる。
 怯えた表情のローズマリーが、金貨の袋を抱きながら、私たちを見下ろしている。

「よこせ」

 ローズマリーは私の顔を見た。私が頷くのを確認した後、お金を天井から床にどさりと落とした。
 男は部下たちを連れて帰って言った。
 なんだかすごく嫌な予感がした。
 そしてのそ嫌な予感の通り、男はその数日後に、魔生物ハンターを連れて、魔封じの檻を持って現れた。

「家にいるのは二匹だけか? 水色大虎と天馬じゃ、売ればお前たちの借金の半額が賄えるぐらいの金になる。大人しく差し出せ。そうじゃなければ、家が燃えるかもしれねぇな」

 男はそう言った。
 ティグルちゃんとシスちゃんは、とても賢い子たちだ。
 抵抗もせずに、檻に入って――そして、連れていかれてしまった。

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