崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ

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レイシールド様の秘密

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 レイシールド様はトレイにカップを二つ、ティーポットを一つ持ってきてくれた。
 シンプルな白い磁器のティーポットで、カップに紅茶を注ぐ。
 大きな手の長くしっかりした指がティーポットを器用に持つのが不思議だった。
 レイシールド様が持つと、ティーポットはとても小さく見える。器用に紅茶を注いで、ソファに座る私の前にあるテーブルに、カチャリとソーサーとティーカップを置いてくれる。

「どうぞ」

「……い、いけません、こんなこと……」

 紅茶を勧められて、私は胸の前で手を合わせると首を振った。
 皇帝陛下自ら紅茶をいれるなどあってはならないことだし、それを使用人の私に飲ませるなどもっといけないことだ。

「問題ない」

 問題しかないと思う。
 レイシールド様は戸惑う私を気にした様子もなく、紅茶と共に持ってきたアーモンドをペロネちゃんに、干し肉をリュコスちゃんにあげた。
 さっきまで警戒心を露わにしていたペロネちゃんとリュコスちゃんは、尻尾を振りながらアーモンドと干し肉を嬉しそうに食べている。

「きゅぷぷ」

『気がきくでないか。ティディスがよこす芋料理よりもよほど美味い』

「し、仕方ないじゃないですか、お肉は高いのですよ……」

 畑で取れるお芋や森でとれるきのこや山菜だって美味しいと思う。

「ティディス、飲め」

「は、はい……」

 レイシールド様は私の隣に座ると、長い足を組んだ。
 私は恐縮しながらカップに手を伸ばす。私、お仕事一日目だというのに休憩してばかりだ。
 震える手でティーカップを持つと、一口紅茶を口にした。
 とっても高級な味がする。クラウヴィオ様がいれてくれたものより甘くなくて、すごくスッキリしている。

「美味しいです……」

「そうか」

「あ、あの」

「ティディス、俺は、身の回りのことは一人でどうにでもできる」

「えっ」

 突然独り立ち宣言をされてしまって、私は固まった。
 ど、どういうことかしら。つまりお世話係はいらないという意味?
 ずっとお側に置いて欲しいと思ったばかりなのに。私、職を失ってしまうの?

「長く戦場に身を置いていた。着替えや湯浴みや、掃除や洗濯は自分で行なっていた。食にはこだわりはないが、自分で湯を沸かすこともできるし、茶をいれることもできる」

「そ、そうなんですね……」

「シリウスには、世話係などいらんと言っていた。黎明宮には過去、もっと多くの使用人がいたが、不要ゆえに皆追い出した」

 つまり、私のことも追い出したいということかしら。
 淡々とレイシールド様が紡ぐ言葉に、私はますます青ざめる。
 この紅茶は、餞別、ということかしら。レイシールド様はいい人だから、職を失う私を不憫に思って、最後に紅茶を飲ませてくれたということなのかしら。
 ありがたいけれど、どうしよう。やっぱりレイシールド様を氷漬けにしてしまったから、ダメだったのね。
 もちろんダメだ。考えなくてもわかる。

「ティディス。俺はお前を追い出すつもりはない」

「あ……っ、れ、レイシールド様、私、思ったことを全部口に出していますか……?」

 私は恐る恐る尋ねてみる。私が心の声を口に出して言ってしまっているのかもしれないと、ちょっと不安になったからだ。

「違う。俺は昔から、他者の考えていることがわかる」

「考えていることが……!?」

 なんでもないようにレイシールド様は言うけれど、それってとてもすごいことじゃないのかしら……!
 つまり私が、ソファふかふか、高級、召される……と思っていたことや、レイシールド様は氷柱ハリネズミの親戚みたい、と思っていたこと、すごくいい人だわ! と、嬉しく思っていたことが筒抜けということ。
 恥ずかしい。私、口から言葉を出すのは得意ではないけれど、頭の中では結構ぐちゃぐちゃ色々考えているものだから。
 恥ずかしいわね。変なことを想像したりしていなかったかしら、私。心配。

「わ、私、私、何か不敬なことを考えていなかったでしょうか……?」

「いや」

「いや、考えていたの、いやだとしたら、私……あぁ、ごめんなさい、私、不埒な女です……」

 私は両手で顔を隠した。
 今日一日私は基本的にお金のことばかり考えていたわよね。
 レイシールド様のお側に侍ることができるなんて名誉なことなのに、お金を貰えて嬉しい、ということばかり。

「お前は、……いや、なんでもない」

「そ、そこで口篭られると、とても気になるのですが……わ、私、変な妄想していませんでしたか? 大丈夫ですか……?」

「おそらく」

「曖昧……ッ」

「それはともかく。人の頭が覗ける故に、宮殿という場所は俺には居心地が悪く、長く戦場にばかり身を置いていた。だが、国境での諍いも収まり、こちらに戻ってきてみれば、身の回りの世話を全て使用人が行う生活だ。うんざりするほど居心地が悪くてな」

「そうなのですね……」

「人が多ければ、雑音も増える。ある程度力は制御できるが、人が多ければ多いほどどうしても零れて頭に響く声がある。俺には使用人などいらないと、シリウスに伝えて使用人を全員追い出した。シリウスは、俺が結婚をしないと困ると言って、これは、と思った者を侍女として俺の元へ送り込むようになった」

「え……」

「世話係とは、つまり、嫁候補のことだ」

「ええ……っ」

 ちょっと待って。
 嫁候補。
 由緒正しいお家のご令嬢ならわかるけれど、私はあんまり有名でもない伯爵家の娘。しかも貧乏人。
 シリウス様の選ぶ基準が分からないわ。


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