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帰りがけに出会う騎士
しおりを挟むお給金を前払いして貰えるかもしれない……!
私はるんるんしながらシリウス様の執務室から出た。
レイシールド様付きの侍女は、内廷で働く侍女の中でも特別待遇らしい。
一人で皇帝陛下の身の回りのお世話をするので仕事が他の侍女よりも多いことに加えて、「みんなが嫌がる仕事は給金が高い」のだと、シリウス様が言っていた。
一ヶ月のお給金は、おおよそ百万ギルス。
これは、私が就職できる可能性のあるお仕事の中では、破格の金額である。
というか、これ以上に稼げるお仕事など他にない。
一年頑張れば一千万ギルスになる。
なんとかすればすべての借金を支払い終えることができるはずだ。
そして、オリーブちゃんとローズマリーちゃんを、貴族学園に通わせてあげることもできると思う。
貴族学園は十五歳からの三年間なので、オリーブちゃんが十五歳になるまでにはなんとかお金を貯めて、入学資金にあててあげたい。
「オリーブちゃん、お姉ちゃん、頑張るからね……妹たちに、死にましょう、なんて言わせてはいけないわ。姉として……!」
姉馬鹿かもしれないけれど、二人とも天使のように可愛らしい容姿をしている。
それに、優しい子たちだ。きっと素敵な貴族男性といつか結婚できると思うのよ。
我が家が借金まみれの貧乏生活から脱却できれば、きっと……!
天使のような二人と一緒に、クリスティス伯爵家の裏山で山菜取りをするのは楽しかったわね。
でも、二人とも我が家の状況のせいで年齢よりも大人びていて、借金取りの方が来た後などは「お姉様、もう駄目です」「お姉様、死ぬしかありません」とか言ってくるものだから、心が痛んだ。
不甲斐ないお姉ちゃんでごめんね。
二人よりも私はずっと年上なのに、二人に悲しい思いをさせるなんて、いけない。
人と話をするのはあまり得意じゃないけれど、頑張るわね。
朱色の円柱状の太い柱の並ぶ長い回廊を黎明宮に戻るために軽い足取りで歩いていると、前方から騎士と思しき方がこちらに向かって歩いてくる。
「今、君は死ぬとか言わなかった?」
通りすがりざまに、徐に腕を掴まれてまじまじと顔を覗き込まれたので、私は喉の奥で悲鳴をあげた。
――誰なのかしら、この方。
騎士なのはわかる。服装が騎士だからだ。
紺色の詰め襟の団服には、金糸で牡丹の柄が美しく縫われている。腰からは剣をさげている。
お城の中で腰からの帯剣が許されているのは、皇家の方々と皇家直属の騎士団である、ガルディアス騎士団の方々だけである。
紺色の団服の片腕には、金色のラインが一本入っている。牡丹の柄と相俟って、華やかな印象だ。
白に近い銀の髪は、前髪がやや長く、顔にかかっている。
雪原狐の毛並みのような艶やかな美しい髪に、神秘的な金色の瞳。やや浅黒い肌をしている男性である。
もちろん、知り合いじゃない。
はじめましての男性に、腕を掴まれている。どうしよう。
「何があったか知らないけれど、死んではいけないよ。その服は、黎明宮の侍女のものだね。ということは、君はレイシールド様の新しい侍女かな」
神秘的な見た目の男性だけれど、優しい口調は親しみやすさを感じる。
すごく心配そうに見つめられて、私は掴まれた腕と男性の顔を交互に見つめた。
「ええと、はい、レイシールド様の侍女の、ティディスと申します」
「ごめんね、よく聞こえなかった」
男性は私の腕を掴んだまま、ぐいっと、私の顔に自分の顔を近づけた。
私の口に、耳を近づけてくれているらしい。
初対面でこんなに距離を詰めてくる男性ははじめてかもしれない。
といっても、ここに来てからお話をした男性は、レイシールド様とシリウス様以外では、この男性がはじめてなのだけれど。
「ティディスと申します……!」
「ティディちゃん」
男性は、にっこり微笑んだ。
ティディちゃん。
はじめて、そんなふうに気さくに呼ばれた。これは、あだ名というものかしら。
あぁ、どうしよう。親しみを込めて名前を呼ばれると、ちょっと嬉しい。
つい口元がにやついてしまう。私は人と話すのが嫌いなわけじゃないのだ。自分から話すのが苦手なだけで。
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