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ルディクとの対決 2
しおりを挟むけれど――マリちゃんは空中で一回転すると、黒い霧へと姿を変えた。
黒い霧は、私のよく知る方々の姿になる。
それは、私のお父様だった。
ルーファウスお父様だ。それはお父様だとわかるけれど、その手も顔も、どことなく黒くくすんでいる。
『よくも、私を殺してくれたな、アルゼン』
ルーファウスお父様は風穴から響く低い風の音のような声でそう言うと、アルゼンの前に顔を近づける。
アルゼン叔父様は悲鳴を上げて、馬から落ちた。
『お前は馬車に細工をし、私とミケーネを崖下に落とした。ミケーネは骨が折れ、哀れな姿だった。私はしばらく生きていた。だが、傷から血が流れて、やがて死んだ』
お父様の声が、あたりに響く。
それは私がずっと、言えなかったことだ。
――叔父様たちは、お父様とお母様を殺しましたか。
なんて、とても口にできなかった。
だから。因果応報だと。罪には必ず罰があるのだと。そう、いいきかせていた。
『キャストリンは、私とジョセフィーヌの娘。そして、ミケーネも自分の子供として、大切に、愛していた。それを――お前たちは苦しめ、追い詰め、挙句の果てに国を乱した』
お父様の隣に、ミケーネお母様の姿があらわれる。
『キャストリンにしたことを、ずっと見ていた。許せない。許せない。可愛い私の子供に……!』
ミケーネお母様の体は、奇妙にねじれている。
その捻じれた体を、シーナ叔母さまにぐいっと近づけた。叔母様は悲鳴を上げて、その場にぺたんと座り込んだ。
マチルダはルディク様に抱きついて、ぶるぶる震えている。
お父様の隣に、もう一人の人影があらわれる。
それは黒い妖艶な魔女、ジョセフィーヌだった。
『黒の魔女を怒らせた。その罪は重い。お前たちには呪いがふりかかるだろう。一生消えない呪いだ』
歌うように、黒の魔女が言う。
それは人を苦しめることをなんとも思っていない、冷酷な魔女の姿。
けれどジョセフィーヌお母様が、冷酷な魔女ではないことを私は知っている。
お別れをしたお母様がどうしてここにいるのかわからない。
もしかしたら――ずっと私のそばにいてくれた、ルーファウスお父様やミケーネお母様に同情して、魔力をマリちゃんに残しておいてくれたのかもしれない。
いつか、恨みを晴らすことができるように。
『ルーファウスと、ミケーネの無念。投獄されて死んだ者の無念。キャストリンを苦しめた罪。全ての者たちの恨みを、私がかわりに晴らしてやろう。呪いには、呪いを』
指先がすっと伸びる。尖った爪が、ルディク様とマチルダを示した。
『害のない、動物となり――もう一度やりなおしなさい。そうね。蟻がいい。死んだら、今度は羽虫。羽虫として死んだら、今度は鼠。鼠として死んだら今度は――小石』
ルディク様とマチルダが、頭を押さえて悲鳴を上げて、苦しみ始める。
アルゼン叔父様とシーナが、地面にうずくまり呻き声をあげている。
その姿は、蟻になんで変わっていないのに。
まるで、起きているのに悪夢を見ているようだった。
「お母様、お父様……!」
『キャストリン、すまなかった』
『キャストリン、ごめんね』
お父様とお母様が、私の前から消えていく。
ルディク様の連れてきた兵士たちは、怯えたように命令もされていないのに逃げていく。
それを、待ち構えていたフィエル様の兵たちが捕縛する。
「ジョセフィーヌお母様……ありがとうございます、助けてくれたのですね」
『違うわ、キャストリン。まだわかっていないのね。これは、あなたの力』
「わ、私の……?」
『あなたには力がある。私と同じ、魔女の力』
「じゃ、じゃあ、どうやったらシェイド様の呪いをとくことができますか……!?」
『あなたの思うままに、動きなさい。あなたの望みは、叶う』
ジョセフィーヌお母様は、はじめからそこにいなかったかのように消えてしまった。
いつのまにか、私の手の中にマリちゃんが戻ってきている。
マリちゃんは何も起こらなかったみたいな顔で「なー」と、甘えたように鳴いた。
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