呪われ王子と呪具好き令嬢〜婚約破棄されたので呪われた王子の花嫁になります〜

束原ミヤコ

文字の大きさ
上 下
28 / 35

新しい国

しおりを挟む

 フィエル辺境伯を助けてからというもの、塔周辺にはやたらと人が増えた。
 私は塔の最上階から、あっという間に広がっていく街の風景を眺めている。
 
 暗い森ばかり広がっていた、呪われた陥没地帯だというのに――ジスルティート商会の館がどどんと聳え立ち、その周りにお店がばばんと並びはじめると、その先はすごく早かった。
 まずはオリヴァー様を慕う人々がやってきて、グランベルトの街がそのまま移住してきたように、建物が増えてあっというまに街ができた。
 
 ルディク様の元から逃げてきたという兵士の方々や、ルディク様の治世では生きていけないという人々がどんどんやってきて、塔を中心として罪人の流刑地は、さながら新しい王都のように賑やかになった。

 私は皆が住みやすいように、陥没地帯からの移動を楽にするためのクイールちゃんを何体も作ってあげたし、昼間の日光を集めて輝く夜の街灯や、街への移動をしやすいように移動用鏡も各地に設置してあげた。

「シェイド様、多くの方々がシェイド様を王だと呼んでいますね」
「あぁ」
「私のせいでしょうか。嫌ではありませんか?」
「嫌ということはない。私はとくになにもしていないからな」

 シェイド様は人々を傷つけないように、塔の最上階に籠っていて、私は一緒にいる。
 時々オリヴァー様や、フィエル様がやってきて、国の状況について話し合いをしている。
 それ以外は静かなものだ。
 街の人々には人々の暮らしがあって、私はいつものように魔道具を作って。
 シェイド様に快適な生活をして頂いて。
 そうしながら、呪いをとく方法を模索している。

 マリちゃんはもう話をすることもなく、黒猫ちゃんとして私の傍にいてくれる。

「それに、キャスのせいではない。……皆に敬われたいと思ったことはないが、賑やかな風景を眺めるのは、いい。夜、あかりが灯っているのも。人の声がするのも。食事をつくる香りも、それから、お前がここにいてくれるのもな」
「は、はい……」

 私は急に恥ずかしくなって俯いた。
 私の正面のソファに座っているシェイド様から視線をそらして、無意味にぱらぱらと黒の書の頁を捲る。

「キャス。お前にとっても不本意なのでは? 森には、呪物が多くあると言っていた。こうも賑やかになってしまえば、採集もままならない」
「それは、いいんです。別に、もう」
「いいのか?」
「はい。もちろん、私は呪いが好きです。マリちゃんと……それから、お母様が、私に与えてくれたものですから。でも」
「でも?」
「シェイド様が皆に慕われていると、私は嬉しい気持ちになります。皆が元気に生活を営んでいるのを見るのは好きです」
「私はお前がいればいい。だが、来るものを拒んだりもしない。ルディクから王位を奪おうとは思わないがな」
「ルディク様の圧政の話、お聞きになられたでしょう? オリヴァー様たちは、シェイド様を王と掲げて、ルディク様を倒したいと思っていらっしゃるようです」
「それは――難しいことではないが」

 シェイド様は悩まし気に眉を寄せた。
 このところ、オリヴァー様たちは集まってその話をしている。
 辺境周辺の貴族たちフィエル様に――つまりは、シェイド様に従うと言って、何人もご挨拶にきている。
 
 このまま周辺貴族たちと力を合わせて王都に攻め込むべきか、それとも塔を中心として新たな国をつくるか。
 幸いにして――シェイド様の力を目の当たりにしたオーランド王国の王からも、シェイド様に親書が届いている。
 
 彼らは力のある物には敬意を払う。
 何度もオーランドの兵を退けた強き力のある国だと認め、同盟を結びたいのだと。

 オーランドと結べはシェイド様の王しての地位はより盤石になるというのが、オリヴァー様たちの主張だった。
 シェイド様は「苦しみむ民が減るのなら、それでいい」とこたえていた。

「なにか、悩むことがありますか」
「私の力は呪いの力。呪いがとければ、消えてしまうもの。たとえ皆がこの力に屈服したとして、それは私自身のものではない」
「それは違いますよ、シェイド様。皆が頼っているのはシェイド様の力ではなくて、幽閉を自ら選んで、誰も恨まずに静かに生きてきた――困窮する国の状況を知って迷わず手を差し伸べた、シェイド様の優しさです」
「……それはお前が、逃げなかったから。私の傍に、いてくれたから」
「私は呪いが好きなんですよ」
「きっかけなど、なんでもいい。私の傍に居ることを、お前はえらんでくれた」

 シェイド様は私に手をのばそうとして、すぐにひっこめた。

「触りたいな、キャス。……今は、ひどい呪いだと思う。触りたくても、お前に触れることができない」
「シェイド様……」

 私も――手を、繋ぎたいなと思う。
 黒の書の表紙を撫でた。
 お母様も、せめて――呪いのときかたを、教えてくれたらよかったのに。

 お母様はサフォン様を恨んでいたのだから、その息子のシェイド様にした最後の意地悪だったのかもしれない。 


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

処理中です...