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辺境への援軍
しおりを挟む塔に人が増えた。
アベルさんが塔の一階から五階までに豪華な家具を持ち込んで、五階から十階まではオリヴァー様たちの住居となった。
私とシェイド様は最上階。アベル様やオリヴァー様たちがいつでもグランベルトに行けるように、私は各階にグランベルトに続く鏡を設置してあげた。
階段を昇り降りするのも大変なので、鳥籠式上下可動装置を塔の中央に作って、上下への移動を楽にした。
それ以外は塔に住む方々は自由にしていただいていた。
シェイド様は塔の最上階から外に出ることはほとんどなかった。
他の人に何かの拍子に触れてしまって、傷をつけないようにしているのだろう。
「うーん……むぅ……」
「どうした、キャス」
「はぁ!」
「なんだ」
塔の最上階のお部屋で、私はシェイド様に手をかざして気合を入れてみた。
特に何も起こらない。
「はぁぁぁぁ」
「何か悩みがあるのか」
シェイド様が私を心配してくれている。
私は深くため息をついて、肩を落とした。
「シェイド様の呪いをといて差し上げたいのです。人が多くなりましたから、シェイド様の自由がなくなってしまいました」
「私は気にしていない」
「私は気にしています! 私には呪いをとく力があるのに、どうやったらいいのか。魔女の呪いをとく魔道具があるのかもよくわかりませんし」
「今のは、呪いをとこうとしてくれたのか」
「はい。気合を入れてみました」
「気合を入れたからといって魔法が使えるわけではないのだがな」
シェイド様はソファに座る私のそばにふわふわ浮いていて、軽く手を開くと手のひらに青い炎が現れて、手を握ると消えた。
「どうやったら魔法が使えるのでしょう?」
「教えるのは難しいな。想像したものが形になる。それだけだ」
「私が釜に素材を入れると、魔道具ができるのと同じですね」
「キャスの場合は、釜を使用する必要があるのかもしれないな。魔女の娘にも、魔女と同じような力があるというわけではないのかもしれない」
私はソファの上で脱力した。
それから立ち上がると、テーブルの上に積み上がった魔道具に視線を送る。
「とりあえず、国が滅んでしまったら穏やかに暮らすことができませんし、このままではみんな困ってしまいますので、オーランドを追い返しましょう」
「あぁ」
そう。
私たちは、アベルさんとオリヴァー様との話し合いで、辺境に向かうことを決めていた。
私の魔道具がそんなに役立ってるなんて知らなかったもの。
困る人がいるのなら助けたほうがいいと思うし。
ルディク様のことが嫌いだからといって、今まさに困っている辺境の方々を捨て置くことなんてできない。
「では、いきましょうか皆さん」
そもそも、塔は辺境の地にあるので、オーランドとの国境にはそこまで遠くない。
国境を守るフィエル辺境伯は、オリヴァー様の話ではルディク様に見切りをつけてオーランドに降伏しようとしているのだとか。
そうなってしまうと、オーランドの兵が辺境を抜けて王都へと迫ってきてしまう。
オーランド王は野心家で、手に入れた国の扱いはひどいものなのだそうだ。
オーランド人に、奴隷のように扱われるのだという。公爵家にいたかつての私みたいに。
多くの人が死んでしまうかもしれない。辛い思いをするかもしれない。
放ってはおけないわね。
「はい、キャストリン様」
「あぁ、キャストリン」
オリヴァー様の私兵と、アベルさんがお金でかき集めてくれた兵と、馬と、武具。
塔を監視する監視砦の兵士たちは、アベルさんが買収をしてオリヴァー様の兵に加わっている。
ずらっと並ぶ騎馬兵と、その先頭にいるオリヴァー様とアベルさんが、私が出立の合図をすると返事をしてくれる。
私は万能薬をたくさん作って袋に詰めて、クイールちゃんに載せている。
クイールちゃんに乗る私の横には、空に浮かんだシェイド様の姿。
「我らは王の軍です。ルディクに反旗を翻し、シェイド様を王に戴くと決めました」
「……ルディクに民を守る力がないのなら、私は幽閉されている場合ではないのだろうな。これでも王家の血筋だ。民を守るのは、私の役目だろう」
オリヴァー様が結成したのは、シェイド様を王とする反乱軍。
いつもあまり自分の考えを言わないシェイド様がはっきりと自分が王家の血筋と認めた。
それを聞いた兵士たちから、威勢のいい声があがる。
そうして私たちは、国境の戦場へと向かったのだった。
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