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ジョセフィーヌとキャストリン 2
しおりを挟む私は一瞬何を言われたのかわからなくて、目をぱちぱちさせる。
私はお父様とお母様が亡くなるまで、一緒に暮らしていた。
私のお母様はジョセフィーヌではない。ジョセフィーヌは一緒にはいなかった。
つまり、私が生まれる前の話、ということかしら。
シェイド様は私よりも十歳も年上だから、確かに、お父様が一時期ジョセフィーヌを匿っていたとしても、おかしくなんてないかなと思うけれど。
「そう。私はキャストリンの父、ルーファウスに匿ってもらったの。顔も、髪型も変えてね。でもね、サフォンとルーファウスは親しくて、サフォンが私をルーファウスに渡すことは、以前から決まっていたらしかった」
「どうしてでしょうか……」
「さぁ。ルーファウスは優しい男だから、騙された私を不憫に思ったのは本当だったのかもね。私はずっとサフォンのことが忘れられなかった。けれどいつしかルーファウスに情が湧いて、それで、あなたを産んだの、キャストリン」
「まさか、そんな……」
ジョセフィーヌが私のお母様?
では、私の亡くなったお母様とは、一体誰なの?
「ところで私は、若く見えるのだけれど、その時は二百年以上生きていた。だからね、キャストリン。私は死んでしまったの。あなたを産んだことで、体に限界がきてしまった」
「ちょっと待ってください、ジョセフィーヌ。二百年以上生きているのに、サフォン様に結婚詐欺をされたのですか?」
「お母様と呼べばいいのに。そうよ。情けないことにね。魔女は、人と関わらない。なぜなら魔女の力を利用しようとする権力者がたくさんいるから。でもそれって寂しいわ。何度も私の元へ訪ねてきて、私の力が必要だと、私に恋をしたのだというサフォンに、私はすっかり騙されてしまったのよ」
「……だから、お前はキャスに、自分の本を」
ジョセフィーヌはにっこり微笑んだ。
いつの間にか雨が止んで、雷鳴もおさまっていた。
「魔女の力を受け継いでもいいことなんてないわ。だから、ルーファウスにはキャストリンに魔女の娘だと伝えるなと言った。私が死んだら、新しい嫁を娶って、それが本当の母だと伝えて、私のことは忘れてと。マリーンには、キャストリンを見守るように伝えた。もしキャストリンに何かがあったら、私の本を渡すように。私の最後の魔力を与えてね」
あぁ。
そうだったのね。
ジョセフィーヌは、私のお母様。
シェイド様にはひどいことをしたけれど、愛情を持って生きていた、魔女だけれどごく普通の女の人だ。
「私の話はここでおしまい。キャストリン、あなたは私の力を使える。シェイドの呪いも解くことができる。そうじゃなければ、魔道具なんて作れるわけがないもの。ただ釜に材料を入れただけで、魔道具が出来上がるわけがないでしょう?」
「そ、そうなのですか……!?」
「そうよ。あなたが私の娘だから、それができたの。でも、魔女になんてならなくてもいい。魔女たちは退屈で、ろくでもない道具を作るからね。赤の魔女も白の魔女も、男に騙され、男の子供を産んで死んだ私を愚かだって嘲笑っているわ、きっと」
徐々に、ジョセフィーヌの体が薄くなっていく。
指先から粒子のように、黒い霧状になって消えていく。
「お母様!」
「死んだつもりで生きなさい。キャストリン、あなたはよくやっている」
私が駆け寄ると、消えかかった手が私の頭を撫でた。
けれど、触られている感覚はない。
それでもなんだか、あたたかいような気がした。
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