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ジョセフィーヌとキャストリン 2
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「あまり時間がないから、手短に話すわね」と、黒の魔女は言った。
「私の魔力の残滓が消えるまでに。まずはここまで辿り着いたことを褒めてあげるわ」
黒の魔女の後ろに、唐突に垂れ幕が現れる。
そこには「おめでとうキャストリン!」と書かれていた。
結構フレンドリーな魔女なのね。
「ちなみに。私は残留思念のようなものだけれど、会話ができるのはマリーンが私の記憶を通じて喋っているからね。マリーンは、賢いの。使い魔だから」
「あなたは黒の魔女なのですよね」
「名前はジョセフィーヌ」
「ジョセフィーヌの小箱の」
「そう。あなたに渡したのが黒の書。そこに書かれていたジョセフィーヌの小箱。ジョセフィーヌの小箱は、シェイドの呪いを集めることができる。ここまでヒントを与えたのだから、もうわかるわよね?」
「つまり、お前は私とキャストリンが出会い、キャストリンが呪いを集めてここに辿り着くことを予言していたと?」
シェイド様の質問に、ジョセフィーヌは首を振った。
「未来予知はしないわ。それは魔女にはできない。ここにあなたたちが辿り着いたということは、あなたたちは出会い、ここまできたということ」
「黒の書とは、お前の本だな。名前がそのままだから、そうではないかとは思っていたが」
「わかりやすいでしょう。そこに名前が書いてあるとしたら、私の名前。私はジョセフィーヌ。かつてシェイドに呪いをかけた」
「理由を教えてください。呪いを解く方法も」
黒の書が、黒の魔女の本なんて気づかなかった。
確かに名前は同じだと思うけれど、黒の魔女が私に本を贈ってくれるなんて思わないもの。
マリちゃんだって普通の猫じゃないってことは気づいていたけれど。
でも、考えたってわからないし。
わからないものは、考えたってわからないから、考えないようにしているのよね。
呪物や呪具集めと、魔道具作りで忙しいもの。それ以外の時間は、美味しいものを食べたりとか、お風呂に入ったり、ぐっすり寝たりしたいのだし。
「お前はどうして私に呪いを? 私に恨みがあったのか」
「あったといえばあった。私は、サフォンにこわれて、手を貸した。隣国の侵略から国を守るために、兵士として戦場に出て、魔法と呪具を使って隣国の兵を退けた」
「……父上も、城の者たちもそんなことは言っていなかった」
「城の中では私の話は禁句だったのでしょう。サフォンは私と結婚すると約束してくれたの。恋に盲目だった私は、国とは関わらないという魔女の掟を破ったわ。でも」
ジョセフィーナの背後の垂れ幕が消える。
彼女の感情に呼応するように、部屋が暗くなり窓の外には雨音と雷鳴が響き出した。
「魔女など嫁に貰うのは間違っている。城の中でそんな議論が巻き起こり、サフォンは私を捨てた。違うわね、初めからお嫁さんにしてくれる気なんてなかったの。だって、戦争が収まった頃、サフォンの隣にはすでにエレノアがいて、エレノアのお腹にはシェイドがいたのだもの」
「まぁ、ひどい」
「最低な男だな、父上は」
「そうでしょう、そうでしょう!」
「それは呪いもかけたくなるというものだ。仕方ない」
「シェイド様、二十八年間も苦しんだのに、あっさり許してしまっていいのですか」
「別にいい。塔に閉じこもっていたら、キャスが私の元にやってきたのだから」
「いいわね、あなたたち。……私はね、呪いをかけずにはいられなかった。でもね、情もあったし、シェイドが可哀想という気持ちもあった。だから、呪いと一緒に祝福も与えたの」
ジョセフィーヌはどことなく演技がかった仕草で両手を広げた。
「生まれてくる子供は誰もを魅了するぐらいのイケメンで性格もよくて賢くて強くて非の打ち所がない賢い王になりますように! でもサフォンみたいに女たらしになったら腹が立つから、誰かが触れたら触れた相手が大怪我をしますように! って」
噂ではもっと仰々しい言葉だったのだけれど、結構、わかりやすい呪いだった。
シェイド様は腕を組んで「なるほど」と納得している。
ジョセフィーヌの気持ちもわかるけれど、少しやりすぎではないのかしら。
シェイド様がもう許しているのだから、もういいのかもしれないけれど。
「呪いをかけた私は、追われる身になったわ。当然よね、生まれてくる王子を呪ったのだもの。逃げようとした私を不憫に思って匿ってくれた人がいたの。それが──」
「キャスの亡くなった父か」
さらりとシェイド様が言った。
「私の魔力の残滓が消えるまでに。まずはここまで辿り着いたことを褒めてあげるわ」
黒の魔女の後ろに、唐突に垂れ幕が現れる。
そこには「おめでとうキャストリン!」と書かれていた。
結構フレンドリーな魔女なのね。
「ちなみに。私は残留思念のようなものだけれど、会話ができるのはマリーンが私の記憶を通じて喋っているからね。マリーンは、賢いの。使い魔だから」
「あなたは黒の魔女なのですよね」
「名前はジョセフィーヌ」
「ジョセフィーヌの小箱の」
「そう。あなたに渡したのが黒の書。そこに書かれていたジョセフィーヌの小箱。ジョセフィーヌの小箱は、シェイドの呪いを集めることができる。ここまでヒントを与えたのだから、もうわかるわよね?」
「つまり、お前は私とキャストリンが出会い、キャストリンが呪いを集めてここに辿り着くことを予言していたと?」
シェイド様の質問に、ジョセフィーヌは首を振った。
「未来予知はしないわ。それは魔女にはできない。ここにあなたたちが辿り着いたということは、あなたたちは出会い、ここまできたということ」
「黒の書とは、お前の本だな。名前がそのままだから、そうではないかとは思っていたが」
「わかりやすいでしょう。そこに名前が書いてあるとしたら、私の名前。私はジョセフィーヌ。かつてシェイドに呪いをかけた」
「理由を教えてください。呪いを解く方法も」
黒の書が、黒の魔女の本なんて気づかなかった。
確かに名前は同じだと思うけれど、黒の魔女が私に本を贈ってくれるなんて思わないもの。
マリちゃんだって普通の猫じゃないってことは気づいていたけれど。
でも、考えたってわからないし。
わからないものは、考えたってわからないから、考えないようにしているのよね。
呪物や呪具集めと、魔道具作りで忙しいもの。それ以外の時間は、美味しいものを食べたりとか、お風呂に入ったり、ぐっすり寝たりしたいのだし。
「お前はどうして私に呪いを? 私に恨みがあったのか」
「あったといえばあった。私は、サフォンにこわれて、手を貸した。隣国の侵略から国を守るために、兵士として戦場に出て、魔法と呪具を使って隣国の兵を退けた」
「……父上も、城の者たちもそんなことは言っていなかった」
「城の中では私の話は禁句だったのでしょう。サフォンは私と結婚すると約束してくれたの。恋に盲目だった私は、国とは関わらないという魔女の掟を破ったわ。でも」
ジョセフィーナの背後の垂れ幕が消える。
彼女の感情に呼応するように、部屋が暗くなり窓の外には雨音と雷鳴が響き出した。
「魔女など嫁に貰うのは間違っている。城の中でそんな議論が巻き起こり、サフォンは私を捨てた。違うわね、初めからお嫁さんにしてくれる気なんてなかったの。だって、戦争が収まった頃、サフォンの隣にはすでにエレノアがいて、エレノアのお腹にはシェイドがいたのだもの」
「まぁ、ひどい」
「最低な男だな、父上は」
「そうでしょう、そうでしょう!」
「それは呪いもかけたくなるというものだ。仕方ない」
「シェイド様、二十八年間も苦しんだのに、あっさり許してしまっていいのですか」
「別にいい。塔に閉じこもっていたら、キャスが私の元にやってきたのだから」
「いいわね、あなたたち。……私はね、呪いをかけずにはいられなかった。でもね、情もあったし、シェイドが可哀想という気持ちもあった。だから、呪いと一緒に祝福も与えたの」
ジョセフィーヌはどことなく演技がかった仕草で両手を広げた。
「生まれてくる子供は誰もを魅了するぐらいのイケメンで性格もよくて賢くて強くて非の打ち所がない賢い王になりますように! でもサフォンみたいに女たらしになったら腹が立つから、誰かが触れたら触れた相手が大怪我をしますように! って」
噂ではもっと仰々しい言葉だったのだけれど、結構、わかりやすい呪いだった。
シェイド様は腕を組んで「なるほど」と納得している。
ジョセフィーヌの気持ちもわかるけれど、少しやりすぎではないのかしら。
シェイド様がもう許しているのだから、もういいのかもしれないけれど。
「呪いをかけた私は、追われる身になったわ。当然よね、生まれてくる王子を呪ったのだもの。逃げようとした私を不憫に思って匿ってくれた人がいたの。それが──」
「キャスの亡くなった父か」
さらりとシェイド様が言った。
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