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呪いの収集
しおりを挟むお茶を飲んで軽食を食べ終わると、私は叡智の指輪を掲げた。
「お手伝いメイドさん」
私が呼ぶと、輝く光とともに丸い玉が現れる。
丸い玉はぐにゃりと形を変えて、顔の部分に布がかぶせてあるメイド服を着た女性に姿を変えた。
「これは自動人形。いわゆるオートマタです。私の姿をしたドッペル人形を応用してつくりました。私は快適な生活が大好きなので、基本的には身の回りのことをお手伝いメイドさんにお願いしています」
お手伝いメイドさん『イドさん』は、お皿やティーカップなどの片付けをはじめてくれる。
キッチンに持っていって洗ってくれる。ちなみに水もちゃんと出る。
水が出る魔道具は基本中の基本。生活は快適な方がいいので、井戸に水を汲みにいくとか古代みたいなことはしたくない。
「便利なものだな」
「シェイド様も本気をだせば、何でもできるのでは?」
「そうだな。自分のために、この力を使おうとは思わないが」
「どうしてですか? 生活は快適な方がずっといいじゃないですか。でも、このキャストリンが来たからにはご安心を。シェイド様の快適な生活は私が守ります。だからちょっとだけ呪いを分けてくださいね」
私はそう言って、ジョセフィーヌの小箱を取り出した。
何故ジョセフィーヌの小箱なのかと言えば、黒の書にそう書いてあったからである。
「これはジョセフィーヌの小箱。箱を開くと呪いを吸い取る力があります」
「ジョセフィーヌとは誰だ」
「分かりません。黒の書に書いてあったので、マリちゃんのお友達かもしれません」
「その猫はなんだ?」
「マリちゃんはマリちゃんです。それ以外のことは私にもよくわからないのです」
私はシェイド様に向かって、徐に美しい宝石箱の形をしたジョセフィーヌの小箱を開いた。
その途端に小箱から半透明な手のようなものが現れて、シェイド様をぬるっと掴む。
シェイド様は驚いた顔をしたけれど、じっとしていた。
ずるずると、その半透明な手はシェイド様の呪いを吸収して真っ黒く変わった。
「まぁ……すごい。これが黒の魔女の呪い……!」
「気持ち悪いな……」
「痛くはないですか?」
「痛みはない。だが、変な感じだ」
もしかして、全て吸収したらシェイド様の呪いってとけるのではないかしら。
というか、呪いをとく方法があるのではないかしら。
少し勿体ない気がするけれど、シェイド様が困っているのなら呪いを解いて差し上げたほうがいいのではないかしら。
そう思っている間に、ジョセフィーヌの小箱の中に真っ黒に染まった手が戻って、ぱたんとひとりでに箱が閉まってしまった。
「ん~……シェイド様、体の蔓模様がなくなりませんね。つまり、呪いはそのまま?」
「さぁ。分からん」
「触ってみましょう!」
「怪我をするからやめろ」
「まぁ、そう言わずに。今、小箱が呪いを吸収したのですから、少し薄らいでいるかもしれませんし」
私はシェイド様の頬にぺたっと触った。
途端に、私の手の平が切れて、ぽたぽたと血が流れ落ちる。
「痛い……」
「だから言っただろう……! これ以上、私にお前を傷つけさせるな。キャス、いいか、私に近づくな」
「はい、ごめんなさい……」
「大丈夫か」
「はい。心配ですか?」
「あぁ。嫁が怪我をしているのを見て、いい気持ちはしない」
「ふふ……」
私はぽろぽろ泣きながら、にやにやした。嫁って言って貰えた。嬉しい。
手のひらの傷をさくさくっと万能傷薬で治した。
それから、ジョセフィーヌの小箱を大切に、叡智の指輪の中へとしまい込む。
「さぁ、今日は色々あってもう疲れましたので、ゆっくりお風呂に入って、寝ましょうか」
「……ここでか」
「はい。もちろん。夫婦なのですから、一緒に寝るのですよ。お風呂も入りましょうね、シェイド様。きっととっても気持ちがいいですよ」
シェイド様は私がここにいることを受け入れてくれたようだった。
ベッドの端の端の方で小さくなって眠っているシェイド様の背中を眺めながら、私は考える。
(呪いの王子様に会えるって喜んでいたけれど、シェイド様はそのせいで独りぼっち。私、かなり軽薄だったわ)
独りぼっちでいることが寂しいなんて、私が一番よく知っているのに。
私の腕の中にいるマリちゃんとクイールちゃんをぎゅっと抱きしめる。
私はシェイド様に快適な生活を送っていただきたい。
私と一緒に、自由に楽しく。人生を謳歌して欲しい。
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