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魔道具師キャスの成り上がり人生 1
しおりを挟む私が――屋根裏でじっとうずくまり、ただ死を待つだけの日々からいかにして自分の足で歩きだしたのかまで話し終えると、シェイド様の持っているグラスがバリンと割れた。
割れたけれど、中の葡萄酒はふわふわ浮いていて、割れたグラスの散らばった破片が、するすると元の状態に戻った。
「シェイド様?」
「いや。それで、お前はどうしたのだ。それから」
「私はこっそり屋敷を抜け出しました。私が屋敷からいなくなっても怪しまれないように、素材を集めて、まず手始めに私と同じ形をしたドッペル人形を作りました」
「簡単につくれるものなのか?」
「とりあえず、素材集めからでしたが……黒の書には、素材の場所や作り方なども詳しく乗っていたので、結構簡単でした」
「そういうものなのか」
「はい」
私と同じ形をして、簡単な返事をすることができる人形が出来上がるまでは、あまり遠出はできなかった。
近くの古戦場やらいわくつきの廃屋やらで、土地に残る呪いによって変性した呪物をあつめて、屋根裏部屋へと持って帰った。
屋根裏部屋に足を踏み入れる者など誰もいなかったけれど、一応部屋の隅に隠しておいて、布をかぶせた。
夜になると屋根裏の小窓から窓を伝い、その先にある背の高い木にしがみつき、地面まで降りる。
そして朝が来る前には戻ることを繰り返していると、結構するすると、行ったり来たりできるようになった。
呪物を組み合わせて魔道具をつくることは本に書いてあったとおりに行えば、そんなに難しくない。
魔女は窯を使用する。窯にいれて混ぜると、それぞれの呪物の持つ魔力が反応しあって、呪具がうまれる。
呪具には人を不幸にする力がある。
これは魔女たちが、呪具を使って人を不幸にして恨みつらみの感情を満たして、魔力を持つ呪物を育てるためである。と、黒の書には書かれていたけれど。
これは本当かどうかわからない。
人の不幸が好きな人って結構いるものだから、もしかしたら単純に人々を不幸にすることが趣味なのかもしれない。
それに魔女たちも呪具ばかりではなく、魔道具も作っていたようだし。
ともかく私は魔女ではない。
魔女ではない私がつくると、呪物の持つ魔力が組み合わさって、魔道具ができる。
屋根裏に窯を運ぶのは大変だったから、はじめは廃墟で見つけた調理場の窯を使った。
窯であればなんでもいいらしい。そんなわけで、私を模したドッペル人形ができた。
「お前は……夜な夜な、一人で廃墟などをうろついていたのか? 危険だろう……!」
「危険ですが、こうして私は無事でいるので、いいじゃないですか」
「しかし。襲われたりはしなかったのか?」
「狼に?」
「狼だけではない。……男、などに」
「そんなこともあったような気もします」
「キャス……!」
「でも、無事ですし、返り討ちにしたので大丈夫です。私は痛いのが嫌いなので、ちゃんと護身についても考えていました。次に作ったのがこの子です」
私は「おいで、クイールちゃん」と言って両手を広げた。
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