12 / 35
キャストリン呪いに目覚める 2
しおりを挟むここから落ちたらきっと、楽になるだろう。
全てから解放されて、私は、楽に──。
「おやめなさい」
声が響いたのはその時だった。
今まさに飛び降りようとしている私の目の前に、ふわふわと浮かんでいる黒猫の姿。
「猫……?」
「世界を呪い恨み死を選ぶ。あなた一人が消えるだけ。あなた一人が消えてたとしても、世界は何も変わらない」
「そんなことは、わかっています。恨みも呪いも、今の私には……」
「恨み憎み怒りなさい。あなたが一人が消えることと、この国のすべての人間が消えること。それは、同じ」
「同じではないです。私が消えることと、他の人が、死んでしまうことは違う」
「あなたを救わぬ、助けぬものたちなど、いくら死んでもいい」
「な、なんて過激な猫ちゃんなの……」
私は危険思想を持つ猫ちゃんのおかげで、窓から落ちずにすんだ。
「死を選ぶことができるのなら、死んだつもりで生きなさい。死んだつもりで生きれば、あなたはなんでもできる」
「そうでしょうか……」
「私は、一つだけあなたに力を与えよう」
私は猫ちゃんを連れで屋根裏に戻った。
いつの間にか、屋根裏の床に一冊の本が落ちていた。
「学びなさい。それは呪い。呪いは魔法。魔法は力。あなたの力になる」
「猫ちゃん、あなたは一体誰なのですか?」
「私は、マリーン。それが私の、本当の名前」
それから、猫ちゃんはもう喋らなくなってしまった。
私は猫ちゃんを、マリちゃんと呼ぶことにした。
一人きりの私にとって、マリちゃんの温もりがあることはありがたくて、薄暗く寒々しい屋根裏もちっとも寒くなかった。
それから数日間、私は本を読み耽った。
黒の書という名前のその本には、魔女の話が書かれていた。
かつてこの国には、白の魔女と、赤の魔女と黒の魔女がいたこと。
彼女たちは不思議な力があり、それは魔法や呪いと呼ばれていた。
奇跡を起こすのが、魔法であり、祝福。
そして、死や不幸を呼び起こすのが、呪いであり呪具。
負の力や感情が土地に溜まると、植物や動物に呪いが貯まる。その溜まった呪いを成形して作り出したのが呪具。
その呪具や、変性した植物や鉱物や動物などを使用して、作られるのが魔道具。
私はすっかり、呪いの虜になった。
そんな不思議な物がこの国にあるのなら、見てみたい。
マリちゃんが私に知識を与えてくれた。
死んだつもりになって生きる。
そうね。やってみよう。このまま死ぬよりは、少しでもいいから、楽しいことをしてみたい。
47
お気に入りに追加
792
あなたにおすすめの小説

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。
朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。
傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。
家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。
最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!
みなと
恋愛
「思い出した…」
稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。
だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。
そして、殺されてしまったことも。
「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」
冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。
その結果はいかに?!
※小説家になろうでも公開中
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!
ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」
「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」
王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。
しかし、それは「契約終了」の合図だった。
実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。
彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、
「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。
王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。
さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、
「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。
「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」
痛快すぎる契約婚約劇、開幕!

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】
「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」
私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか?
※ 他サイトでも掲載しています
【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました
楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。
王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。
アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。
薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。
魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。
ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。
婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる