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 キャストリン呪いに目覚める 2

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 ここから落ちたらきっと、楽になるだろう。
 全てから解放されて、私は、楽に──。

「おやめなさい」

 声が響いたのはその時だった。
 今まさに飛び降りようとしている私の目の前に、ふわふわと浮かんでいる黒猫の姿。

「猫……?」
「世界を呪い恨み死を選ぶ。あなた一人が消えるだけ。あなた一人が消えてたとしても、世界は何も変わらない」
「そんなことは、わかっています。恨みも呪いも、今の私には……」
「恨み憎み怒りなさい。あなたが一人が消えることと、この国のすべての人間が消えること。それは、同じ」
「同じではないです。私が消えることと、他の人が、死んでしまうことは違う」
「あなたを救わぬ、助けぬものたちなど、いくら死んでもいい」
「な、なんて過激な猫ちゃんなの……」

 私は危険思想を持つ猫ちゃんのおかげで、窓から落ちずにすんだ。

「死を選ぶことができるのなら、死んだつもりで生きなさい。死んだつもりで生きれば、あなたはなんでもできる」
「そうでしょうか……」
「私は、一つだけあなたに力を与えよう」

 私は猫ちゃんを連れで屋根裏に戻った。
 いつの間にか、屋根裏の床に一冊の本が落ちていた。

「学びなさい。それは呪い。呪いは魔法。魔法は力。あなたの力になる」
「猫ちゃん、あなたは一体誰なのですか?」
「私は、マリーン。それが私の、本当の名前」

 それから、猫ちゃんはもう喋らなくなってしまった。
 私は猫ちゃんを、マリちゃんと呼ぶことにした。
 一人きりの私にとって、マリちゃんの温もりがあることはありがたくて、薄暗く寒々しい屋根裏もちっとも寒くなかった。
 それから数日間、私は本を読み耽った。

 黒の書という名前のその本には、魔女の話が書かれていた。

 かつてこの国には、白の魔女と、赤の魔女と黒の魔女がいたこと。
 彼女たちは不思議な力があり、それは魔法や呪いと呼ばれていた。
 奇跡を起こすのが、魔法であり、祝福。
 そして、死や不幸を呼び起こすのが、呪いであり呪具。

 負の力や感情が土地に溜まると、植物や動物に呪いが貯まる。その溜まった呪いを成形して作り出したのが呪具。
 その呪具や、変性した植物や鉱物や動物などを使用して、作られるのが魔道具。

 私はすっかり、呪いの虜になった。
 そんな不思議な物がこの国にあるのなら、見てみたい。

 マリちゃんが私に知識を与えてくれた。
 死んだつもりになって生きる。
 
 そうね。やってみよう。このまま死ぬよりは、少しでもいいから、楽しいことをしてみたい。


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