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婚約記念パーティー 2
しおりを挟む私の体はスッキリ綺麗に。ぼろぼろだったドレスも新品のように綺麗に。髪も艶々サラサラとなった。
先ほどから訝しげな顔で私を眺め続けているシェイド様に、淑女の礼をしてみせる。
「さぁ、これで綺麗になりました。ハレの日に、ぼろぼろというのはよくありませんものね。シェイド様、せっかくなのでお酒を飲みますか? 葡萄酒もありますし、麦酒も、樽酒も各種取り揃えていますよ。さぁ、こちらにどうぞ。怖くないですから、ね?」
「私はお前を怖がってなどいない。お前が私を」
「だから、怖くないですって! むしろ好きです! 呪いに塗れた王子様なんて、最高じゃないですか……!」
「……はぁ」
シェイド様は深々とため息をついて、渋々ソファに座ってくれた。
私も隣に座ると、シェイド様の前のお皿にお菓子を取り分けておいてみる。
食べようとしないので、今度はお皿を手に持って、ぐいぐい勧めてみる。
「美味しいですよ、シェイド様。毒とか、入っていませんのでご安心を」
「疑ってなどいない」
「じゃあ遠慮を?」
「そういうわけではないが……」
「じゃあ食べましょう。はい。どうぞ。あーん、ですよ。はい、お口を開けて」
「……馬鹿なのか、キャス。近づくな」
「はい、あなたのキャスは、あなたにちゃんと触らないように気をつけています。フォークごしなら大丈夫なのでは? 試してみましょう、気になりますもの」
フォークに刺した生ハムを、シェイド様の口元に押し当ててみる。
諦めたように開かれた口には、綺麗な歯と赤い舌がのぞいている。
その中に生ハムをそっと入れた。フォークごしでは、私の指先は切れたりしなかった。
あくまで、呪いが適応されるのは皮膚と皮膚との触れ合いに限定されるみたいだ。
黒の魔女は何を考えていたのかしら。
シェイド様に誰も触れないように、誰にも触れられないようにする呪い。
美しい容姿と賢さと賢王になるほどの人格者にうまれることが祝福で、触れられないのが呪いだとして。
まるでそれは、鋭い棘をもつ荊の中に埋もれた黄金の果実のようだ。
「大丈夫でしたね」
「……あぁ」
「美味しいですか?」
「……美味しい。……とても」
「よかった」
私はシェイド様のために、グラスを取り出して、秘蔵の『悪魔の誘い』とラベルに書かれた葡萄酒のボトルを取り出した。
その葡萄酒を、グラスにそそぐ。
「シェイド様、この葡萄酒は私が趣味で行っている呪物集めの時に手に入れた、五百年前に海に沈んだ呪いの沈没船から引き上げてきた箱に入っていた葡萄酒でして。皆が気味悪がっていらないというのでもらいました。特に呪われていませんのでご心配なく」
「……もう、私にはお前がよくわからない。屋根裏にいたり、商売をしたり、沈没船から葡萄酒を手に入れたり、平然と、私の隣に座ったり」
「では、私の話をしましょう。退屈な話ですが」
「聞かせてくれ」
シェイド様はもう不機嫌そうじゃなかった。
グラスを手にして口につけて傾ける様は、まるで呪詛の王、みたいだった。
呪詛の王ってなんなのかよくわからないけど。今私が、勝手に作った言葉なので。
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