呪われ王子と呪具好き令嬢〜婚約破棄されたので呪われた王子の花嫁になります〜

束原ミヤコ

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憧れの王子様のお部屋訪問

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 シェイド様はしばらく考えた後、口を開いた。

「お前はどうやら哀れな女らしい」
「哀れではなく、幸運だと思っていますけれど」
「そのうち出ていきたいと望むだろう。一階の扉は開いておく。好きな時に出ていくがいい」
「出ていきませんし、出ていきたいとも望みません」
「まぁいい。部屋に案内しろと行ったな。好きな部屋を使え、空き部屋ならそこらじゅうにある」

 そう言い残して上階へとふわふわ浮かんでいってしまうシェイド様を、私は階段をぱたぱたあがって追いかけた。
 婚礼着のスカートというのは長くて、階段をあがるのにはかなり邪魔だ。
 スカートを掴んで持ち上げると、細いヒールの靴があらわになる。
 
 カツカツ音を立てながら階段をあがりシェイド様を追いかける私の姿に気づいて、シェイド様はふわりと私の元まで飛んできた。

「女」
「はい」
「何故、私の後をついてこようとしている? 私は塔の最上階にいるが、そのような靴で登りきることができるほどこの塔は低くない。それに、その格好は一体」
「夫婦は共にいるものですから……! それに、同じお部屋でシェイド様の暮らしぶりを眺めたいですし、体の紋様がどのあたりまで入っているかも気になりますし、呪いを受けたのに、魔女のような力が使えるというのも不思議です」
「万が一、共に部屋で過ごして体が触れ合ったら、お前の怪我は先ほどの比ではすまない」
「えっ、触ってもいいのですか?」
「泣いていたくせに……」
「痛ければ泣くのです、人間ですから。そのあたりは多分大丈夫です。私はシェイド様のお傍にいます、末長く、ずっと……! これは、花嫁衣装です。少々汚れていますし、ぼろぼろしていますけれど……」
「何故汚れている? ぼろぼろというか、なんというか……」
「踏まれたり蹴られたり投げられたりしましたので、仕方ないのですね」
「お前の身に何があったんだ……!」

 シェイド様が叫んだ。
 私は白いドレスを掴んで、自分の姿を見下ろした。
 婚約破棄の後、私はとってもおとなしくしていたよね。
 抵抗する気もなかったし、逃げようと思えば逃げられたけれど、そのための準備万端、叡智の指輪だったのだけど。
 でも、呪いの塔に行ってシェイド様と会いたかったし。

 大人しくしていた私を、ルディク様と兵士たちは盗人だとか、最低な女だとか色々言って蹴ったり踏みつけたり、罪人用の馬車に放り投げたりしたのだ。
 それはドレスもぼろぼろになる。仕方ない。
 怪我は、打撲とかすり傷ぐらいだし、骨は無事だ。
 でも、私は馬車の中でしくしく泣いた。
 悲しかったからじゃない。痛かったからだ。痛いのは苦手だ。

「私のことはいいのです、ともかく、私はシェイド様のいらっしゃる最上階まで登りきります。待っていてくださいね、体力には自信がある方ですから!」

 私はひたすら階段をあがった。
 ひたすらひたすらあがり続ける私の横を、シェイド様がふわふわついてくる。
 とても困った顔をしている。
 私を小馬鹿にするわけでもないし、どちらかというと心配そう。

「おい、キャス」
「はい! はい、シェイド様、なんでしょう? あなたのキャスです。あなたの嫁の、キャスですよ」
「……最上階まで登る必要はない。最上階に行こうが、途中の部屋に入ろうが、一緒だ。何もないのだから」
「そうなのですね。でも、大丈夫です。任せておいてください」

 私はぐるぐるした螺旋階段をあがりにあがり、あがり続けて、最上階まで辿り着いた。
 ヒールの靴が邪魔くさかったので途中で脱いで裸足になったら、結構早くのぼりきることができた。
 スカートはズルズルしていたし、ドレスは肩からずり落ちかけていたけれど、登りきれたのでなんでもいい。

 私は塔の最上階で大きく両手をあげた。

「登りきしました! 最上階、シェイド様のお部屋です、やった! お邪魔します!」
「何故それほどまでに元気なんだ……」
「正直足が痛いし疲れていますしぜえぜえしていますけれど、憧れの方のお部屋に入れるので元気いっぱいですね」
「意味がわからん」
「シェイド様のお部屋……二十八年間もの間、呪いに塗れていたお部屋……!」

 シェイド様が止めなかったので、私は最上階にある扉を開いた。
 塔の最上階とはどんな感じなのかしらと思っていたけれど、階段の先に大きめの踊り場があってその先に扉がある。
 
 扉を開くと、窓があって天井があって、それ以外には何もないただの石壁と床と天井に囲まれた、箱みたいな部屋が現れた。

「見ても面白いものなどななにもない」
「本当ですね……普通の部屋です。私のお部屋とそっくり」
「お前は一体、どんな生活を送ってきたんだ。いい加減、話せ。小出しにするな」
「快適さのカケラもない、ただのお部屋です……シェイド様、ご苦労なさったのですね」

 私はほろりとした。
 痛みに弱い私は、不幸な境遇の人にも弱い。
 二十八年間もこんな不自由で薄暗くて何もない部屋に一人きりなんて。
 
 それなのに、ルディク様よりもずっといい人だなんて……!
 なんていう逸材なのかしら、シェイド様は……。
 私は感心しながらべそべそした。さすが呪いの力で賢王になるという運命が決まっている方だわ。
 呪いってすごいのね。


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