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自分から求めるということ
しおりを挟むこんなところで、何をしているのだろう。
理性は駄目だと訴えているし、よくないことだという禁忌と罪悪感も感じる。
メイド服のブラウスから両胸をさらけ出して、レオンハルトの膝の上で身悶えている。
こんな姿を誰かに見られたらと思うと──恥ずかしくて、いたたまれなくて、心の奥が冷えた。
けれど同時にぞくぞくと体に熱が灯る。
嫉妬なんて、されたことがなかった。愛されていなかったのだから、当然だ。
それどころかアルヴァロには「貴族の男たちを手のひらで転がせるぐらいになれば、お前も王妃として役に立つだろう。他の男と話して構わない」と言われていた。
ルティエラは、他の男と親しくしてはいけない、会話をするのも二人きりになるのもいけないと教育を受けてきた。
当然戸惑ったし、困惑もした。
ただ──アルヴァロに逆らったり意見をするものいけないと言われていたために、ただ「わかりました」と頷くことしかできなかった。
今のルティエラは、あの時とは違う。両親の失望の瞳を恐れなくていい。
自由に、していられる。
仕事の手伝いをしているのだから、仕事上の関わりがある者たちとは親しくするべきだ。
アルヴァロの婚約者だった時はそれができなかったから、エヴァートンの花という呼び名も少しの棘を含んでいた。
あれは、エヴァートンの高嶺の花という意味だ。
ルティエラ・エヴァートンは高飛車で、アルヴァロと自分以外の者は見下している。仮面のような笑顔を貼り付けてはいるが、自分からは挨拶もせずに、言葉もろくに交わさない。
そんなふうに、嫌われてたことをルティエラは知っていた。
知っていたが──レオンハルトの言う通りだ。気づかないふりをしていた。逃げていたのだ、ずっと。
だから今は、どんな相手にもきちんと、礼儀正しく振る舞っていた。どう思われても、心のままに。
笑顔で、明るく振る舞うことは、ルティエラにとっては楽しかった。
けれどそれは、レオンハルトを不愉快にさせてしまうことだったのだろうか。
「心ここに在らず、という感じだな。ずいぶん余裕だな、ティエ」
「そ、そうではなくて……っ、嫉妬、というのは、はじめてで……」
「君が他の男に笑顔を向けるのが気に入らない。言葉を交わすことも、気に入らない。だが、君の自由を奪いたいわけではない。……だから、嫉妬をすることを許せ」
「っ、ぁ、あ、レオ様、っれお、さま……っ」
遊ぶように胸をちろちろ舐られて、ルティエラはレオンハルトにしがみつくようにしながら小さく吐息を漏らした。
大きな声を出さないように堪えながら名前を呼ぶ。
声には甘えるような響きがあり、拒絶をしているのに嫌ではないのだと声音で伝えてしまっているようで恥ずかしい。
レオンハルトの片手が腰に回る。腰から、その下の双丘を揉みしだかれて、秘所からとろりと雫がこぼれた。
その場所に、レオンハルトの猛ったものが擦り付けられる。
布ごしにも昂っているのがわかり、ルティエラはレオンハルトのそれがいつも与えてくれる快楽を思い出して、切なげに眉を寄せた。
「ん、ぁ、お願い、ここでは……」
「君の下の口は、素直に欲しいと濡れているのに?」
「人が、きます、ですから」
「誰に見られてもいい。君は俺のものだと、見せつけてやることができる。だが、君の愛らしい姿を他の者に見せるなど、不愉快だ。悩ましいな」
「私は……こんな姿、レオ様にしか、見せたくありません。ですから……」
涙に濡れた瞳でレオンハルトの瞳を、仮面越しにじっと見つめて訴える。
レオンハルトはルティエラの頬に触れて、優しく笑んだ。
「どうすればいいのか、伝えたはずだ」
「……っ、はい」
男女の艶ごとは、知識としてはあるがあまり得意ではない。
ルティエラはいつも受け身で、レオンハルトに流されるまま、愛情も快楽も与えられるままに従うばかりだった。
自分から、愛情を示すということは、少し怖い。
怖くて、不安で、羞恥でいっぱいになり、逃げたくなってしまう。
レオンハルトも同じ気持ちで、求めてくれたのだろうか。
獲物を追い詰める狩人にも似ているけれど、愛情をひたむきに向けてくれる純粋さもそこにはあるように感じて、ルティエラは──ずっと、彼に甘えていた。
「レオ様、私……あなたが、好き。……欲しい、です。レオ様が、たくさん」
熱に浮かされるように、好きだと伝えたことは何度もある。
けれどこうして、自分の意志で彼を求めるというのは、はじめてではないだろうか。
口に出してみると、自分の中に驚くほどにレオンハルトへの愛情があることに気づいた。
胸が、張り裂けそうなほど。あなたが、好き。
誘われるように、顔を近づけて、おそるおそる唇を触れさせる。
触れるだけで離れようとした唇を、深く重ねられて、執務机に押し倒された。
ばさばさと、書類が床に散らばる。レオンハルトはそんなことは気にしていないように、ルティエラの腰を抱きながら、ルティエラの唇を貪った。
舌が触れ合い、唾液が混じり合う。唾液は、わずかに珈琲の香りが残っている。
先ほどまで、レオンハルトが飲んでいたものだ。ルティエラが、朝にいれた。美味しいと、褒めてくれた。
その味が、香りがする。
「ん、ぁ、んぅ……」
粘膜が擦れて、互いの境界が曖昧になる。レオンハルトの舌に口の中を撫でられる感覚だけで、頭がいっぱいになって、ルティエラは甘えるようにその背中に手を回した。
好きだと伝えたら、心が好きという気持ちであふれた。
こんなに好きなのに、離れなくてはいけないなんて。
とても、耐えられそうにない、なんて、思いそうになってしまう。
「ん、ん……っ」
「俺も、好きだ、ティエ。愛している」
「……っ、ん、ぁ、あ」
「君と、口付けるのが好きだ。どこもかしこも、君は甘い。全身、砂糖菓子でできているようだな」
「は、ぁ……ん……っ」
息継ぎの合間にうっそりと囁かれて、再び唇が重なった。
舌を絡め合うのが、口蓋を撫でられるのが、気持ちがいい。
気持ちがよくて、幸せで、ここがどこかなんて一瞬、忘れそうになってしまう。
「っ、ふ、ぁ……っ」
うまく息が吸えないルティエラのために、唇は時折離れては、再び重なった。
舌が腫れるのではないかというぐらいに舐られて、ルティエラはレオンハルトに抱きしめられながら甘く達した。
深い絶頂とは違う、甘く軽い絶頂を、腰をゆらめかせながら繰り返した。
ルティエラの腰を押さえつけて、レオンハルトは布ごしに高ぶりを大きく開かせたルティエラの足の狭間に押し付ける。
突き上げるように布ごしに押し上げられて、ルティエラはぎゅっとレオンハルトの逞しい背中を抱きしめた。
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