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些細な嫉妬
しおりを挟む首のリボンを、レオンハルトが咥えてするりと解いた。
器用に両胸をすくうようにして両手で掴まれて、服の上から指先がこりこりとまだ柔らかい胸の突起を弄る。
「レオ様、駄目です、ここでは……」
「君が、つれないのがいけない。こうしていないと、理性的な君はすぐに不安になってしまうだろう? 俺がどれほど伝えても、自分を罪人だと思っている」
「……どうして、分かってしまうのですか」
「君は嘘が下手で、俺は嘘を見抜くのが上手い。以前もそう言ったな」
「申し訳ありません、私……どうしても、考えてしまって。聖女様が傷ついたのは事実です。私は何もしていないわけではないのです、気づかなかったことも、罪でしょう」
それ故の、五年間の懲罰だったのだ。
ルティエラは、それについては文句などなかった。
それで傷つけてしまった罪が償えるならと受け入れていたし、懲罰のあとの新しい人生についても考えることができていたのだ。
けれど、今は違う。
こんなに──レオンハルトに甘やかされていては、懲罰ではない。
「全て、疑わしい。天災の魔女ならば、虐められたと泣き寝入りせずにやり返すことも容易いだろう。君に、雪や雨を降らせるようにな」
「聖女様ですから、やり返すなど思いつかなかったのではないかと」
「そうかな。俺はそうは思わないが、君はそう思うのだろうな。ティエ、君は懲罰を望んでいるのだろう?」
やや強く、胸を掴まれて、服の上から胸の頂を抓られる。
僅かな痛みを感じて、ルティエラは眉を寄せた。
「ぃ……っ」
「君から俺に口づけて。俺が欲しいと、言え」
「……ゃ、ぁ、だめ、ここでは、いけません……」
「君はつれない。それに、俺は少し妬いている。だから、俺を慰めてくれないか? 専属秘書として、俺の命令を聞くのは君の役割だ」
ブラウスのボタンを器用に外しながら、レオンハルトはルティエラの首に口づけた。
レオンハルトの侍女たちが用意してくれた下着は、支給品の質素なものではなく、貴族が身に着ける高級なもので、繊細なレースでできていて美しいが布の面積が少ない。
ブラウスの前をあけられると、下着に包まれた胸が半分ほど露わになる。
指で下着をずらされると、すぐに白く形のいい胸がまろびでた。
外気に触れた胸の頂が、何かを期待するようにつんと尖って震えた。
隠そうとしたものの、狭い椅子の上でレオンハルトの膝に乗っているので、少し動くだけで体勢を崩してしまいそうになる。
何もできずにただ、レオンハルトの腕を握るルティエラを覗き込むようにしながら、レオンハルトは口元に笑みを浮かべた。
仮面をしている今でも、その下の素顔は、その瞳は、熱を帯びてルティエラを見つめていることが分かる。
楽し気に細められているのだろう。もしくは、欲望に濡れているのだろう。
そのどちらも、レオンハルトに長い時間をかけて失った記憶を教え込まれた夜から、幾度も見た。
だからといって慣れたりはできないけれど。
その視線を、空気を、雰囲気を感じるだけで、体温があがっていくようだった。
体が勝手に熱を帯びていく。
先程まで、二人きりの部屋には文字を書く音と紙をめくる音ばかりが響いていた。
そこには淫靡さなどまるでなくて、ただ仕事を淡々とこなしているだけだったのに。
部屋の空気さえ、変わっていってしまうようだった。
「レオ様、お待ちください……ここでは……それに、嫉妬、というのは……」
「あぁ、可愛い。食べてしまいたくなるほどに」
「お願いです、待って……」
乳輪をくるりと指が辿り、太い指に優しくそわそわと触れられる。
人の来る執務室で、胸をさらけだしていることが恥ずかしくてたまらないのに、快楽の予兆を敏感に感じ取って、ぞくぞくする体がどうしようもなく泣きたくなった。
メイド服を着ているせいか、レオンハルトが仮面を被って軍服を着ている仕事の最中の姿だからか、それともここが執務室だからか。
本当に、彼に従属しているような気分になる。
「私……っ、ぁ……レオ様に、なにか、してしまいましたか……?」
「俺に従順なようで、心の奥では君は俺から離れることを考えているだろう。それが一つ目。二つ目は──騎士たちが、君を見る目が気に入らない」
「私を、見る目……?」
「あぁ。君は明るく、愛想がいい。誰にでも分け隔てなく挨拶をするし、言葉を返すだろう?」
「は、はい……それは、当たり前、で……」
「騎士たちは君を女として見ている。俺が君を抱く想像をして、自分を慰めている者もいるはずだ。そんな者たちが、君に話しかけて、体に触れる。君は俺のものだというのに」
ルティエラは常にレオンハルトと一緒にいるために、個人的に騎士たちと話したり、触れられたりしたことはない。
ないように、思う。
「……っ、ぁ、あのとき、の……」
ふと、思い当たる記憶があり、ルティエラは目をぱちりと見開いた。
それは今日の午前中のこと。レオンハルトに手紙を届けにきた騎士から、ルティエラは手紙を受け取った。
礼を言って、手紙を受け取るときに手が触れた。
申し訳ないと謝罪をする男に、ルティエラは気にしないように言った。
それから──その男は、ルティエラの髪に羽がついていると、手を伸ばして羽をとった。
恐らく、羽ペンの羽の一部が抜けて、髪についたのだろう。
男は礼をして出て行った。レオンハルトは特に何も言わなかったが、あの時のことを妬いているのだろうか。
「それだけではないが、気に入らない。君に触れていいのは俺だけだ。君が微笑みかけていいのも、俺だけだというのに」
「レオ様、まって……っ、あ、ぅ……」
くるくると乳輪を辿り遊んでいた指先が、ぐいっと乳首を押しつぶした。
もう片方の胸の突起を、舌で優しく舐られる。
ルティエラは突然の強い刺激に小さく声をあげると、レオンハルトの頭を抱いて、体をびくびくと震わせた。
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