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 聖女と魔女 2

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 アルヴァロに疑問を口にすることは許されなかった。
 不安も心配も口にできず、鷹揚に微笑むことぐらいしか、許されていなかったことを。

「レオ様は、聖女様のことを魔女と言いました。レオ様に呪いをかけたのも、魔女だと。私は、魔女を知りません」
「それはそうだろうな。俺のことがなければ、父上でさえ知らなかったぐらいだ。魔女たちは人と関わらずに密やかに暮らしている者ばかりなのだそうだ。人の前に姿を見せることはない」
「不思議な力を持っているのですよね?」
「あぁ。炎を生み出したり、水を生み出したり、他者に呪いをかけたりもできる。俺が、そうされたようにな」
「なぜ、それほどまでに素晴らしい力をお持ちなのに、隠れているのでしょうか」

 レオンハルトは少し考えるように、沈黙した。
 それから、ゆっくりと口を開いた。

「それは天災の魔女のせいだと、俺に仮面を作った魔女は言ったそうだ。魔女の中でも、その力を持つものは異端。天災の魔女は自らを聖女と名乗り、王家に近づいた。今から千年以上も前の話だ。それ以来、天災の魔女の力を受け継ぐものは、聖女と呼ばれ王家のためにその力を振るうようになった」
「天災の魔女……」
「あぁ。雨を降らせ、嵐を起こす。天候を操る力のことだな」
「クラリッサ様の、聖女様の力ですね」
「聖女のはじまり、最初の天災の魔女は、聖女として王の側に侍り権力を手に入れた。そして、他の魔女を偽りの聖女、異端として、王に殺すようにと進言したらしい」
「どうしてそんなことを……?」

 思いがけない話に、ルティエラは目を丸くした。
 聖女様がそんなことを言うわけがない。遠い昔の話だ、何かがどこかで間違って伝わってしまっただけなのではと思う。

「自分の力だけが特別だと、王に思わせたかったのだろう。権力に対する欲だな。多くの魔女が捕らえられ、魔の手から逃れた魔女たちは姿を隠した。それ以来、魔女たちは人と関わらずに細々と生きている。魔女の血筋に魔女が生まれるが、天災の魔女だけは……多くの子孫を残したらしい。だから、どこでその力を継いだものが生まれるのかはわからないのだそうだ」
「時折、聖女様が生まれるというのは」
「どこかで血が混じっていた者が、聖女を産むのだろう。そして、天災の魔女は新たな聖女として、王に侍ることになる。それが聖女であると、父上も俺も、仮面の魔女から話を聞いた」

 レオンハルトはそこで軽く首を振った。

「この話も、内密だ、ティエ。君だから話した。今の王国で、この話を信じるような者はいない。誰にも言わないで欲しい。異端と言われて、捕縛されかねないからな」
「わかりました。もちろんです」
「それから。……俺に呪いをかけた魔女は、情愛の魔女カリーナと呼ばれていたそうだ。トーラスが狩りをしている最中に、偶然出会ったのだという。出会って、恋に落ちて、弄ばれた。カリーナは自分が魔女であることは隠していたそうだ。魔女は異端。知られれば、その身は破滅すると、魔女たちは思っている」
「……それでも恋に落ちたのですか?」
「あぁ。互いに嘘をついていた。カリーナは、トーラスが国王であることも、妻がいることさえも知らなかったのだという。甘い言葉に絆されて、結婚できるのだとのぼせあがった。だが、トーラスはカリーナを散々弄んで、捨てた」
 そうなって当然である。異端の魔女と、国王陛下が結ばれるはずもない。
 妾としても、受けいれられるものでもない。庶民と貴人は、交わってはいけないのだ。
 心が痛む。
 まるで──レオンハルトに熱をあげている自分自身のことのように感じられたからだ。

「カリーナは、俺に呪いをかけたあと、湖に身を投げて死んだという。迷惑な話だ。呪いをかけるのならば、トーラスにしておけばいいものを」
「呪いは、とけないのですか?」
「人前では仮面を被っておけばいいからな。それに、君の前では外すことができる。不自由だとは思うが、君と出会えたのだから、それでいい」

 ルティエラは食事を終えて、ナイフとフォークを置いた。
 それから立ち上がると、レオンハルトに手を伸ばして、その顔を抱きしめる。
 酒が入り、少し、大胆になっていた。
 どうしても今、彼を抱きしめたいと思ったのだ。


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