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愛される幸福 1

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 あの夜も、こんな風だったのだろうか。
 ばちゅ、ばちゅと、突かれるたびに、ひっきりなしに小さな声をあげながら働かない頭でルティエラは考える。

 自分の中にレオンハルトの高ぶりがみっしり埋め込まれている。
 それは信じられないぐらいに大きくて、ルティエラの中でさらに硬く熱くなっているようだった。

 体を揺さぶられながら薄く目を開くと、情欲に収縮した美しい瞳と目があう。
 ルティエラの全てを一つも見逃さないとでもいうように、その視線は熱心にルティエラに注がれている。

 こんなに誰かから見てもらうようなことはなかった。
 
「愛している、ティエ。君が、魅了に惑わされないからではない。俺にとってはどちらでもよかったんだ。俺に魅了されて心も体も差し出す君でも、俺は構わないと思っていた」
「れぉ、さま、ん、んぁ……っ、わからな……っ、わたし……」
「だが、今は──魅了の効かない君がこうして俺に墜ちてくれるのが、たまらなく嬉しい。ティエ、ずっとこうしていよう。俺を見ることができるのは、君だけだ。俺の秘密を知るのも、君だけ」
「れおさまぁ……っ、うん、わたし、だけ……ずっと、して……れおさま……っ」
「あぁ、いい子だな、可愛い」

 愛していると伝えられて、僅かに残っていた理性さえくずれていくようだった。
 ぐずぐずに崩れてとけて、一つになってしまうように。
 言われた言葉だけを従順に繰り返すと、うっとりするような淫らな声で褒めてくれる。
 甘い牢獄の中では、それだけが真実で、それだけが全てだった。

「ティエ、愛し合えば子ができる。あの夜も、尋ねたな。俺の子を産んでくれるかと」

 そうだったのだろうか。
 レオンハルトは確かに、あの雨に濡れた日に──淫らなことをすれば子ができるとルティエラに尋ねた。
 レオンハルトの元から逃げたルティエラに、あれはどういうつもりだったのかと真意を問いただしたかったのだろう。

 実際には忘れていたので、彼がレオンハルトだったということさえ、思い出せなかった。
 あの夜、一体何と答えたのだろう。
 今みたいに深く愛されて、ただ頷いたのだろうか。

 あぁ、でも。思い出す必要は、ないのかもしれない。
 今の自分自身の言葉で、答えたい。

「れおさま、だけ……っ、わたし、あなただけ、だから……ほしい、です……っ」

 熱心な瞳も、甘い声も、淫らな交わりも──その全てでルティエラが欲しいとレオンハルトは訴えてくる。
 どうして、何故と疑問に思うばかりだったが、今はその疑問さえ塗りつぶしてしまうかのような激情に流されるように、与えられる熱がルティエラの心を攫っていく。
 
 愛して欲しいと、確かに願った。愛されてみたいと、願っていた。

 目をつぶって耳を塞いで気づかないふりをしても、誰もルティエラに手を差し伸べてなどくれない。
 ──救われることなんて、なかった。

 アルヴァロの婚約者であったとき、ルティエラはずっと寂しかった。
 寂しいという気持ちには、蓋をしなくてはならなかった。
 アルヴァロの火遊びについても、伝え聞いてはいたが、それを笑って受け流すのが王妃の器であると教えられていた。
 ルティエラの言動も行動も、指の先一本を動かすことでさえ、監視の目があるようで。
 
 自由など、何一つなかった。心も体も、常に小さな箱の中に押し込められていて、全てを諦め飲み込み海の底に沈んでいくこと以外に、ルティエラにはできることなどなかった。

 今は、違う。
 何もかもを失い、ルティエラの背には自由の翼がある。どこにでも行ける。懲罰が終わったら、好きなように生きることができる。

 何をしてもいい。誰に咎められることもない。レオンハルトの愛を受け入れたい。
 でも──。

「れおさま、わたしは、罪人、で……っ」
「違う。君には罪はない。大丈夫だ、ティエ。もう君を傷つけたりしない、誰にも、傷つけさせたりしない。俺は君の騎士、君を守るのが、騎士の役割だろう」
「……ごめんなさい、わたし……っ」

 どうしてか、涙がはらはらこぼれた。
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