悪役令嬢、お城の雑用係として懲罰中~一夜の過ちのせいで仮面の騎士団長様に溺愛されるなんて想定外です~

束原ミヤコ

文字の大きさ
上 下
39 / 74

愛される幸福 1

しおりを挟む

 あの夜も、こんな風だったのだろうか。
 ばちゅ、ばちゅと、突かれるたびに、ひっきりなしに小さな声をあげながら働かない頭でルティエラは考える。

 自分の中にレオンハルトの高ぶりがみっしり埋め込まれている。
 それは信じられないぐらいに大きくて、ルティエラの中でさらに硬く熱くなっているようだった。

 体を揺さぶられながら薄く目を開くと、情欲に収縮した美しい瞳と目があう。
 ルティエラの全てを一つも見逃さないとでもいうように、その視線は熱心にルティエラに注がれている。

 こんなに誰かから見てもらうようなことはなかった。
 
「愛している、ティエ。君が、魅了に惑わされないからではない。俺にとってはどちらでもよかったんだ。俺に魅了されて心も体も差し出す君でも、俺は構わないと思っていた」
「れぉ、さま、ん、んぁ……っ、わからな……っ、わたし……」
「だが、今は──魅了の効かない君がこうして俺に墜ちてくれるのが、たまらなく嬉しい。ティエ、ずっとこうしていよう。俺を見ることができるのは、君だけだ。俺の秘密を知るのも、君だけ」
「れおさまぁ……っ、うん、わたし、だけ……ずっと、して……れおさま……っ」
「あぁ、いい子だな、可愛い」

 愛していると伝えられて、僅かに残っていた理性さえくずれていくようだった。
 ぐずぐずに崩れてとけて、一つになってしまうように。
 言われた言葉だけを従順に繰り返すと、うっとりするような淫らな声で褒めてくれる。
 甘い牢獄の中では、それだけが真実で、それだけが全てだった。

「ティエ、愛し合えば子ができる。あの夜も、尋ねたな。俺の子を産んでくれるかと」

 そうだったのだろうか。
 レオンハルトは確かに、あの雨に濡れた日に──淫らなことをすれば子ができるとルティエラに尋ねた。
 レオンハルトの元から逃げたルティエラに、あれはどういうつもりだったのかと真意を問いただしたかったのだろう。

 実際には忘れていたので、彼がレオンハルトだったということさえ、思い出せなかった。
 あの夜、一体何と答えたのだろう。
 今みたいに深く愛されて、ただ頷いたのだろうか。

 あぁ、でも。思い出す必要は、ないのかもしれない。
 今の自分自身の言葉で、答えたい。

「れおさま、だけ……っ、わたし、あなただけ、だから……ほしい、です……っ」

 熱心な瞳も、甘い声も、淫らな交わりも──その全てでルティエラが欲しいとレオンハルトは訴えてくる。
 どうして、何故と疑問に思うばかりだったが、今はその疑問さえ塗りつぶしてしまうかのような激情に流されるように、与えられる熱がルティエラの心を攫っていく。
 
 愛して欲しいと、確かに願った。愛されてみたいと、願っていた。

 目をつぶって耳を塞いで気づかないふりをしても、誰もルティエラに手を差し伸べてなどくれない。
 ──救われることなんて、なかった。

 アルヴァロの婚約者であったとき、ルティエラはずっと寂しかった。
 寂しいという気持ちには、蓋をしなくてはならなかった。
 アルヴァロの火遊びについても、伝え聞いてはいたが、それを笑って受け流すのが王妃の器であると教えられていた。
 ルティエラの言動も行動も、指の先一本を動かすことでさえ、監視の目があるようで。
 
 自由など、何一つなかった。心も体も、常に小さな箱の中に押し込められていて、全てを諦め飲み込み海の底に沈んでいくこと以外に、ルティエラにはできることなどなかった。

 今は、違う。
 何もかもを失い、ルティエラの背には自由の翼がある。どこにでも行ける。懲罰が終わったら、好きなように生きることができる。

 何をしてもいい。誰に咎められることもない。レオンハルトの愛を受け入れたい。
 でも──。

「れおさま、わたしは、罪人、で……っ」
「違う。君には罪はない。大丈夫だ、ティエ。もう君を傷つけたりしない、誰にも、傷つけさせたりしない。俺は君の騎士、君を守るのが、騎士の役割だろう」
「……ごめんなさい、わたし……っ」

 どうしてか、涙がはらはらこぼれた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...