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 レオンハルトの秘密 2

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 このまま、抱いてしまおうかと思う。
 だが──それでは、犯すのと同じではないのか。

「ゃ、ぁ、あ、だめです、むね……っ、やだぁ……」
「……ルティエラ。俺の話を聞いていたのか。君は俺に、助けてと、言えばよかったのだ」
「れおさま……っ、ごめんなさい、私、わからない……っ」
「昔、庭園で会っただろう。君はアルヴァロの子を生みたくないと言った。それは怖い、と」

 快楽と戸惑いと羞恥に頬を染めて、瞳を涙で潤ませながら、ルティエラは困惑した瞳でレオンハルトを見上げる。

「私、そんなこと……」
「約束をした。君を助ける約束を。……だが、君はその記憶は禁忌だと、心の奥に押し込めたのだろうな」

 あの場には、レオンハルトはいなかった。先にルティエラにそう伝えたのだ。
 ルティエラは誰とも話していない。全て独り言であると。
 アルヴァロ以外の男と話すことさえ禁じられていたルティエラにとって、あの邂逅は禁忌だったのだろう。
 だから、忘れるように努力した。そして、忘れた。
 そう思えば、腑に落ちる。それほどに、ルティエラの立場というのは、小さな箱に無理矢理押し込められたように窮屈で抑圧されたものだったのだ。

「レオ様、私……わからない、です。困ります、こんな……」
「いつまで、目をふさぎ、耳をふさいでいるつもりだ? それが君に求められた立場であり、人格だからか。いい子でいたところで、誰も君を救わない」
「……っ、おこって、いらっしゃるのですか……?」
「あぁ。君が俺を忘れたことを。何もかもをなくしたのだから、俺にすがろうが誰も文句を言わない」

 ブラウスのボタンを丁寧に外し、露わになった白い肌へ唇を落とした。
 もう、いいだろう。
 ここまでしてしまった。誰とも肌を合わせたことなどなかったのに、今はルティエラが欲しくて仕方ない。

 手に入れたらもっと欲しくなるだろう。きっと、彼女しかいらないのだ。
 あの庭園にふいていた甘い香りのする心地よい風と共に、レオンハルトの心はルティエラに奪われてしまった。

 認めてしまえば、あとは簡単だった。
 理屈も理由も消え去って、長年の鬱屈も全て愛しさへとすり替わった。

「ルティエラ……ティエ、好きだ。父と母以外には、誰にも顔を見せたことがない。だが、君にだけは見せよう」

 仮面を外せば、父グレイグにも母ルーネにも似ていないことが知られてしまう。
 それが、顔を隠していた理由の一つだ。

 そしてもう一つは──。
 レオンハルトは肌の一部のように思うときもあり、ひどく邪魔だと思うときもある、顔を覆っている金属を外した。

 仮面の下からあらわれた両目を、レオンハルトの素顔を見て──ルティエラは不思議そうに目をぱちぱちとしばたかせた。

「……何か、感想はあるか」
「お綺麗ですね、レオンハルト様……で、でも、どうして……」
「君が好きだ、ティエ。ずっと好きだった。こんな気持ちを抱えている男の前に、無防備に現れるのだから──何をされても、文句はないな」
「すき……レオンハルト様が、私を……?」

 ルティエラは、不思議そうに何度かそう呟いた。
 それから、レオンハルトに視線を戻すと、なんだか幼い顔をしてふにゃりと笑った。

「私、一度でいいから愛されてみたいと思っていました。嘘でも、嬉しいです。だから、今日だけ愛してくださいますか?」
「……今日だけ、ではない。死が二人を分かつまでだ、ティエ。俺の素顔を見たのだから、当然だろう」

 レオンハルトはこのとき、ルティエラは自分におかしくなるほどに惚れただろうと思っていた。
 ──そういう呪いが、レオンハルトの瞳にはかけられていたのだ。

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