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ごく普通のお仕事
しおりを挟むレオンハルトの硬く熱いものを布越しに押しつけられて、突き上げるように擦りあげられたせいで、下着の下の秘所が熱を持ち潤んでいる。
はしたない姿をアルヴァロに見られてしまった。
たとえ演技であっても、ルティエラは確かに快楽を感じていたし、小さく淫らな声を漏らしていた。
「レオンハルト様……殿下が来訪なさるのに気づいて、このようなことを……?」
「それだけではないがな。殿下はどう出るかな。楽しみに待つとしよう」
レオンハルトは政務机の上からルティエラを抱き上げると、ソファに向かった。
革張りのソファにルティエラを座らせると、労るように軽く髪を撫でて離れた。
「落ち着いたら、仕事をしろ。できるか?」
「できます……」
「まだ物足りないのなら、慰めてやってもいい。君はずいぶん、気持ちがよさそうだったしな」
「……ごめんなさい。はしたない姿を見せてしまいました。演技とは、思わなくて」
「犯されると思って、期待したか?」
くつくつ笑っているレオンハルトを軽く睨むと、ルティエラは立ち上がった。
優しいのかひどいのか、こわいのか、親切なのか──本当に分からない。
ただ、体の熱を持て余していることも事実だった。
一度達したのに、その後も高められて、中途半端に終わってしまった。
レオンハルトの服の下にあるたくましいものの熱さが、忘れられない。
破瓜の記憶はないはずなのに、体は快楽を覚えている。
欲しいと訴えるように蜜口が勝手にひくついたが、ルティエラは気づかないふりをした。
一日、仕事をした。
一つの棚を整理するだけで、夕方までかかってしまった。
そもそも、騎士団の予算や寄付金などが載っている出納帳がどこにもないのだ。
これでは、誰かが金を着服していたとしても、誰にもそれが分からない。
レオンハルトが不在の間、そういったこと全てが杜撰の一言だった。
騎士の名簿もなければ、週間の出勤簿さえない。三年前はあったようだが、みんなどこかにいってしまったと、レオンハルトは肩をすくめていた。
要らない書類をまとめて、必要なものを積み上げて確認しているルティエラと、自分も溜まった書類にサインをしたり意見を書いたりしているレオンハルト。
静かな時間が流れていて、そこには淫靡さなどは一つもない。
だが確かに、ルティエラはレオンハルトに口付けをされたし、胸に印もつけられた。
意識すると、体の芯が熱くなるようだった。
レオンハルトは涼しい顔をしているのに、自分だけ意識をしていることが恥ずかしく、ルティエラは極力レオンハルトを見ないようにしていた。
久々の草むしりや掃除ではない仕事は楽しかった。
けれど、草むしりも掃除も別に嫌いではなかった。執務室は掃除のしがいがありそうだった。
書類を片付け終わったら掃除をして、それから綺麗に整えて──などと、一息つきながらぼんやりと考えて、それからルティエラははっとして顔をあげた。
「レオンハルト様。申し訳ありません。私、お茶も出さずに……昼食の準備も忘れていました」
「集中しているようだから、声をかけなかった。ずいぶん熱心だったな」
「こういうことは、久々で。元々、書き物や整理が好きなのです。はじめると、熱中してしまうところがあって」
「そろそろ終わりにしよう。また明日もある。一晩かけてするような仕事でもない」
書類が溜まって人が死ぬわけでもないのだからとレオンハルトは立ち上がり、それからルティエラに手を差し伸べる。
「騎士団本部に、宿舎がある。他の騎士たちとは別棟だ。今日から君は俺と共にそこで暮らす。帰るぞ、ルティエラ」
「それは……できません。私にも部屋があります」
「拒絶は許していない。俺と共に過ごすのが、君への懲罰だと伝えた筈だ」
「ですが、そこまでしていただくわけにはいきません」
ルティエラは首を振った。
懲罰を受けているのだから、レオンハルトの部屋で過ごすわけにはいかない。
そこまで面倒を見てもらうのは間違っている。
それとも、ルティエラが彼の侍女のように、身の回りの世話をするのだろうか。
「夜も、お世話が必要なのでしょうか」
「ルティエラ。俺が欲しいのは秘書であって、使用人ではない。君に掃除や料理を頼むわけではない。夜伽をしてくれるというのなら、歓迎するがな」
「レオンハルト様……また明日もよろしくお願いします。戻りますね、私」
「やめておけ。きっと、後悔する」
「大丈夫です。この半年、一人でした。問題なく、過ごしていたのですよ」
ルティエラは執務室から出た。
レオンハルトはルティエラを心配してくれているのだ。
品のない冗談は、皮肉の一つなのだろうか。
ルティエラが一夜の過ちを犯したことを、咎めている。演技で感じてしまったことを、咎めている。
(でも、きっと、優しいから、私を放っておくことができないのね)
そう思うと、納得できる気がした。
執務室から使用人室に向かう途中で、クレスルードとすれ違った。
腕を掴まれて、廊下の奥へと引きずるように連れていかれる。
「クレスルード様、どうしましたか?」
「レオンハルト様に、何かされたか?」
「何かとは……」
「今まで女など近づけない方だったのに、お前にだけ何故か入れ込んでいる。ルティエラ。先日の雨といい……ひどいことを、されているのでは? やはり俺は、お前が罪人だとは思えない。それを理由に体を求められているのだとしたら、間違っている」
「ありがとうございます、クレスルード様。ひどいことはされていません。優しくしていただいています」
ルティエラが微笑むと、クレスルードはなんとも言えない顔をした。
怒っているような、傷ついているような。
真面目な方なのだ。真面目だから、懲罰官に選ばれた。
真面目だから、ルティエラの罪を聞いて、ルティエラを嫌っていた。
けれどこの半年で、ルティエラの罪に疑惑を抱いてくれている。それがルティエラには、ありがたかった。
「私、そろそろいきますね。夕食の時間が終わってしまいますので。湯浴みもしたいですし」
「あ、あぁ。そうだな」
レオンハルトもクレスルードも、ルティエラを信じて心配してくれている。
この半年、ルティエラはずっと孤独だった。
それでも平気だと思っていた。今までの生活の方がずっと、苦しかったのだから。
けれど、罪を犯していないことを信じてもらえるというのは、こんなに心強い。
食堂でスープとパンを食べて、部屋に戻る。
部屋の扉を開くと、ルティエラの質素な部屋は、無残なぐらいに荒らされていた。
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