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 雨宿り 2

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 ルティエラにできることは、優しさを大事に抱えて生きていくことだけだ。
 多くを望んではいけない。
 ルティエラは自由だが、この城の中では同時にひどく不自由だった。
 自由なのはルティエラだけで、他の者たちには大切な立場があり、大切な人たちがいる。
 そのうちここから去るのだから、彼らの人生の邪魔をしてはいけない。

「君は、あまり他者に嫉妬をするような女性には見えなかったがな。それで、一度目は何を?」
「……雪が降りました。雪も、綺麗でした。聖女様のお力は、とても素晴らしいものですね」

 明るく、ルティエラは言った。
 これ以上色々と誤魔化すことは難しいと感じたからだ。

 レオンハルトには嘘ばかりついてしまったので、これ以上嘘を重ねたくないということもあった。

「雪の中で草むしりを?」
「はい。雪ぐらいはたいしたことはありません。そのうち冬がきます。そうしたらそれは、毎日のことになるのですから」
「なんて残酷なことを。殿下は知っているのか?」
「騎士様。……もう、構わないでください。私は大丈夫です」
「君はそればかりだな。助けてと、何故言わない」
「私は、本当に……悪女なのです。……虫に刺されたというのは嘘です。私は、多くの男性に体を許しているのですよ。これは、その証です」
「あぁ。そのようだな」

 ルティエラは、ぐいっと自分のブラウスを引っ張って、赤い跡を見せつけるようにした。
 レオンハルトは怒りもせず、嫌悪もせずに頷くと、その赤い跡の上から強引に首筋に噛みついた。

「……っ」
「俺にも体を許してくれるか、ルティエラ」
「ご、ご無体を……いけません。騎士様には、相応しい方がいます」

 ぴりっとした痛みが首筋を走り、それからすぐに優しく舌が首筋を撫でるように辿った。
 湿って、あたたかく、ぬるりとしたものが皮膚を這う感覚に、ルティエラは体を竦ませる。

「騎士様、駄目……っ」
「……男に慣れている女の反応ではない。それぐらいは、すぐにわかる」
「え、演技です……」
「君は嘘をつくのが下手だ。そして俺は、嘘を見抜くのが得意だ。とても、相性がいいな」

 この方は、一体何を考えているのだろう。
 どうして、こんなことを──。

 レオンハルトは、軽く首筋に音を立てて口付けて、再びルティエラを抱き上げた。

「今から君を部屋まで運ぶ。君は意識を失ったふりをしていろ」
「騎士様、私は」
「ルティエラ。俺のいうことが聞けないのか?」
「それは……」
「俺に従え」
「……はい」

 命令をされると、どういうわけか、少し苦しくなった。
 それがどういう苦しさなのかが分からない。胸がドキドキして、体が緊張するような──妙な感覚だ。

 レオンハルトはルティエラを抱き上げて堂々と城の中を歩いた。
 まだ雨の雫に濡れる二人の姿に、それから抱えられているのがルティエラだという事実に、皆がぎょっとした顔をしてレオンハルトを凝視している。

 だが、レオンハルトが怖いのか、誰も声をかけるものはいない。
 懲罰局に向かうと、驚いた顔をしているクレスルードに「裏庭に様子を見に行ったら、雨に降られて倒れていた。熱があるようだ」と伝えた。

「熱が?」
「あぁ。半年も休みなく働かせていたのだろう? 久々の休日をもらい、気が緩んだこともあるのだろうが、雨に濡れて体が冷えて、熱が出たようだな。部屋まで送る。明日は休みに」
「医者を呼びますか」
「俺がいれば医者は不要だ。殿下や聖女が何か言ってくるようなことがあったら、苦情は全て俺に言うように伝えておけ」
「わかりました。悪女……いや、ルティエラ。大丈夫か。今日はゆっくり休め。レオンハルト様に感謝をすることだな」

 レオンハルトの腕の中で、ルティエラは意識を失ったふりをしていた。
 クレスルードに話しかけられたが、返事はできなかった。レオンハルトに命じられていたからだ。
 なんだかそうしていると、本当に熱がでてきたたような気がした。

 
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